超高濃度有機性排水を浄化できるハイブリッド伏流式人工湿地ろ過システム

要約

有機物濃度が極めて高いバレイショデンプン工場廃液や養豚尿液を浄化するハイブリッド伏流式人工湿地ろ過システムを開発し、性能評価を行った。既存システムより省スペースで低コストな人工湿地システムを、汚水の濃度と量や目標水質に応じて提供できる。

  • キーワード:ハイブリッド伏流式人工湿地、デンプン廃液、養豚尿液、排水処理、資源循環
  • 担当:総合的土壌管理・根圏機能利用
  • 代表連絡先:電話 019-643-3464
  • 研究所名:東北農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

バレイショデンプン工場の廃液や養豚場の尿液は、窒素やリンなどの栄養分に富む一方で、有機物濃度が極めて高く水系汚染源となりやすい。また、作物病害や悪臭などの問題要因も抱えており、適切な処理が求められている。これらの超高濃度排水を好気・嫌気ろ床を組み合わせたハイブリッド伏流式人工湿地システムによって段階的にろ過することにより、農地還元可能な液肥を作り、残りは河川放流が可能なレベルにまで浄化することで、健全な農村環境の形成と地域資源の有効利活用に資する。

成果の内容・特徴

  • バレイショデンプン工場(1カ所)、養豚場(1カ所:育成豚約2500頭)、酪農場(3カ所:搾乳牛120~400頭)などから発生する高濃度~超高濃度(生物化学的酸素要求量BOD:1,000~20,000mg/L)の有機性排水を浄化する6カ所の人工湿地(3段~5段、168~2,151m2)を開発し、3~8年間にわたり検証した。処理水は、病害要因や悪臭を低減して液肥に利用するか、さらに窒素・リンを低減して放流する(図1)。安全バイパス構造や軽量浮遊資材の表面敷設などの仕組みにより、目詰まりや冬季の凍結を回避しながらヨシやミミズ、微生物などの生態系を作りつつ、竣工直後から汚水を浄化している。
  • 低濃度から超高濃度にわたる幅広い濃度の有機性排水を、多段階の伏流式人工湿地でろ過することにより、有機物、全窒素、全リンを段階的に浄化できる(図2)。
  • .面積あたりの汚濁負荷に対する酸素移行速度【OTR=流量×{0.5(CODin-CODout)+4.3(NH4-Nin-NH4-Nout)}/面積】は、垂直流ろ床(循環あり:Vr)>垂直流ろ床(循環なし:V)>水平流ろ床(H)であり、それぞれ負荷が高いほど大きくなる(図3)。本システムのOTRは世界的な標準値である28gO2/m2/d(Cooper 2005)より大きくすることも可能で、従来よりも狭い面積で、寒冷地での冬季を含めた排水処理が達成できる。
  • 汚濁負荷とOTRの関係式(図3)より、汚水の種類と量に応じた人工湿地のシステム構成を設計でき、施工費用や電気使用料も概算できる(試算例、表1)。同程度の処理能力を有する従来の機械的処理法に比べ、初期費用は3分の2以下、電気使用料は10分の1以下であり、規模が大きいほどコストパフォーマンスが良くなる。

成果の活用面・留意点

  • 養豚・酪農など畜産に関わる生産者、デンプン工場などの食品加工事業者など、高濃度の有機性排水処理を必要とする様々なユーザに提供できる。
  • 液肥として利用するための肥料成分を評価している。デンプン工場廃液中のジャガイモそうか病菌密度が低減している(低減率82-100%;平均96.5%)。酪農排水や養豚尿液中の大腸菌群数が低減している(低減率99-100%)。
  • 「搾乳牛舎パーラー排水処理のための伏流式人工湿地(ヨシ濾床)システム(2008年成果情報【技術・普及】)」の技術を応用し、適用範囲を広げた研究成果である。

具体的データ

 図1~3,表1

その他

  • 中課題名:寒地畑輪作における根圏の生物機能を活用したリン酸等養分の有効利用技術の開発
  • 中課題番号:151a2
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2009~2012年度
  • 研究担当者:加藤邦彦、眞岡哲夫、中山尊登、岡崎圭毅、中村卓司、菅原保英、山崎 真、信濃卓郎、井上 京(北大農)、家次秀浩((株)たすく)、北川勝治((株)たすく)、滝沢秀樹((株)中山組)、佐々木 仁(環境エンジニアリング(株))
  • 発表論文等:
    1) Kato K. et al. (2013) Ecological Engineering 51: 256-263
    2) Sharma P. K. et al. (2013) Ecological Engineering 53: 257-266
    3) 加藤ら「伏流式人工湿地システム」特許取得2011年12月9日(第4877546号)