「つけな中間母本農2号」由来の晩抽性を選抜できるDNAマーカー

要約

「つけな中間母本農2号」の極晩抽性は、花成抑制遺伝子BrFLCの変異に起因すると考えられ、低温にさらされてもBrFLCの発現量は減少せず花成が誘導されない。BrFLC内の多型をマーカー化することにより効率的にハクサイ等の晩抽性の個体を選抜できる。

  • キーワード:ハクサイ、晩抽性、DNAマーカー、FLC、長日
  • 担当:業務需要畑野菜作・露地野菜品種開発
  • 代表連絡先:電話 019-643-3414
  • 研究所名:東北農業研究センター・畑作園芸研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

Brassica rapaに属するハクサイやツケナ・カブ類では、抽だいすると商品価値が著しく低下するため、晩抽性の付与は重要な育種目標のひとつである。一般にB. rapaは、一定条件の低温により花成が誘導されるが、非結球の「つけな中間母本農2号(以下、農2号)」は、低温ではなく長日条件下で花成が誘導されるため極めて高い晩抽性を有し、有望な育種素材である。そこで、B. rapaに属する葉根菜類の晩抽性育種を効率よく進めるため、「農2号」が示す極晩抽性の原因遺伝子を明らかにし、晩抽性個体を選抜するDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • 「農2号」においては、春化経路における主要な花成抑制遺伝子であるBrFLC2(Brassica rapa FLC 2)とBrFLC3の第1イントロンに約5kbの断片が挿入されている(図1)。
  • 「農2号」のBrFLC2BrFLC3では、低温に遭遇しても発現量がほとんど減少せず(図2)、花成誘導に至らない。
  • QTL解析の結果、抽だい日におけるBrFLC2BrFLC3の寄与率は、46.0%、9.9%と非常に高い。BrFLC2BrFLC3の第1イントロン長の違いを検出できるDNAマーカー(図1、表1)を用いることにより、晩抽性対立遺伝子を持つ個体を高精度に選抜できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ハクサイの近縁種であるシロイヌナズナでは、低温に長時間さらされるとFLCの第1イントロンにタンパク質複合体が結合し、ヒストンのメチル化レベルが上昇することで、FLCの転写が抑制され、花成が促進されることが分かっている。「農2号」のBrFLC2BrFLC3では、この第1イントロンに断片が挿入されたため、低温に遭遇しても発現量がほとんど減少しなくなったと考えられた。
  • 「農2号」は晩抽性が非常に高いため、従来は表現型による選抜を年1回しか行えなかった。開発したDNAマーカーを用いて晩抽性対立遺伝子をヘテロ接合で持つ個体を選抜することにより、年2~3世代を進めることができる。
  • QTL解析の結果、「農2号」の極晩抽性には、BrFLC2BrFLC3以外にも複数のQTLが関与していることが示唆されている。このため、開発したDNAマーカーだけでは、「農2号」の極晩抽性を完全には再現できない。

具体的データ

図1~3、表1

その他

  • 中課題名:露地野菜の高品質・安定供給に向けた品種・系統の育成
  • 中課題整理番号:113b0
  • 予算区分:JST育成研究、JST A-STEP シーズ育成研究、交付金
  • 研究期間:2009~2013年度
  • 研究担当者:由比進、北本尚子(岩手大学)、西川和裕((株)サカタのタネ)、高畑義人(岩手大学)、横井修司(岩手大学)
  • 発表論文等:
    Kitamoto N. et al.(2014)Euphytica 196:213-223
    doi:10.1007/s10681-013-1025-9