大気CO2濃度上昇によるダイズの収量増加における品種間差

要約

現在の大気CO2濃度(400ppm)から200ppmの上昇によって、ダイズの地上部重や稔実莢数が増加し、収量が増加する。その収量の品種間差は稔実莢数の増加率で主に説明され、早晩性や伸育型では説明されない。

  • キーワード:伸育型、早晩性、大気CO2濃度上昇、ダイズ、品種間差
  • 担当:気候変動対応・気象災害リスク低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-7389
  • 研究所名:東北農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ダイズの国内単収は世界水準と比較して低く、安定多収化が求められる。一方で、大気CO2濃度は年々増加しているが、その濃度上昇によってダイズの光合成が促進し、収量が増加すると考えられている。将来の高CO2濃度下での安定多収化に貢献する栽培技術の開発や品種育成が必要であり、その基礎情報として、高CO2濃度がダイズの生育や収量に及ぼす影響やその品種間差を明らかにすることが重要である。しかしながら、高CO2濃度によるダイズの収量増加にどの程度の品種間差があるのかは十分に理解されてない。また、ダイズの基本的な農業形質に早晩性や伸育型があるが、それらと収量増加との関連についても明らかにされていない。そこで、現在の大気CO2濃度(400pm)条件と今世紀中期から末期に予測される高CO2濃度(600ppm)条件に設定した人工気象室で、日本や米国の早晩性や伸育型が異なるダイズ12品種を栽培し、高CO2濃度に対する発育や収量の応答性を比較する。

成果の内容・特徴

  • 供試12品種で平均すると、高CO2濃度によって収量が25%増加する(図1左上)。その増加率は0~62%で品種により大きく異なる。その増加率を有限伸育型7品種と無限伸育型5品種で平均すると、それぞれ22%と29%を示し伸育型間で違いが無い。各伸育型の中ではその増加率は品種により大きく異なる。有限型では「ミヤギシロメ」や「エンレイ」の増加率が大きく、反対に「おおすず」が小さい。無限型では「Harosoy」や「Mandarin」の増加率が大きく、「Athow」が小さい。
  • 高CO2濃度によって地上部重および稔実莢数が増加するが、収穫指数はやや低下する(図1左上、右下、左下)。収量と同様に、地上部重や稔実莢数の増加率は品種間で大きく異なる。収量の増加率と稔実莢数の増加率は直線で回帰され、稔実莢数の増加率が大きい品種ほど収量の増加率が大きい(図2左)。
  • 出芽から開花始(R1)までの日数はCO2濃度の影響を受けない。一方で、R1から成熟始(R7)までの日数は高CO2濃度下で延長するが、その延長程度に品種間差は無い(データ省略)。また、各品種の出芽からR7までの日数と高CO2濃度による収量の増加率には明確な関係性はなく、早晩性(熟期群)が同様な品種間で収量の増加率は大きく異なる(図2右)。
  • 以上のように、ダイズの高CO2濃度による収量増加率の品種間差は稔実莢数の増加率で主に説明され、早晩性や伸育型では説明されない。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、品種改良を通じて将来の高CO2濃度条件での増収効果を向上できる可能性を示すものであり、将来の気候変動下での食料生産予測や適応技術開発の為に有用な基礎的知見となる。
  • 本成果は、自然光利用型の人工気象室のポット試験で得られた結果である為、圃場条件での検証が必要である。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:気象災害リスク低減に向けた栽培管理支援システムの構築
  • 中課題整理番号:210a3
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:熊谷悦史、青木直大(東京大)、舛谷悠祐(岩手大)、下野裕之(岩手大)
  • 発表論文等:Kumagai E.et al. (2015) Plant Physiol. 169:2021-2029