通気や液温制御が不要な保水シート耕方式の養液栽培装置

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要約

不織布を培養液保持材として用い、作物の水消費量に応じた給液管理ができる簡易な養液栽培 装置(保水シート耕)を開発した。本方式では、根系の一部が空気中に露出しているため、通気が 不要である。また、液温制御をしなくとも作物が周年的に安定生育する。

  • キーワード: 不織布、培養液保持材、給液管理、養液栽培装置、保水シート耕、 通気が不要
  • 担当:野菜・茶業試験場 施設生産部 栽培システム研究室
  • 連絡先:0569-72-1490
  • 部会名:野菜・茶業
  • 専門:栽 培
  • 対象:野菜・花き
  • 分類:指 導

背景・ねらい

土壌病害の回避や管理作業の省力化が可能な養液栽培は、今後の施設園芸の中心的技術にな ると 期待されている。しかし、設置コストの高さや培養液管理の難しさ等の問題から、導入を躊躇 している 農家も多い。そこで、装置が簡便・低コストで自作もでき、培養液管理が容易で、作物が周年 的に安定 生育する養液栽培方式を確立する。

成果の内容・特徴

  • 装置の基本構造を図1に示す。栽培ベッド中央部に高さ約5cm の台を置き、その上に底面全体 を 覆うように厚さ2mmのポリエステル製不織布(商品名:ジャムガード、東洋紡(株))を敷く。 不織布の上には根の侵入を防ぐため、遮根シートを重ねる。栽培終了後はシート類を根からは がし、 洗浄して再使用する。
  • チューブかん水による栽培ベッドへの給液は、液貯留部に設置した水位センサーの指示値に 基づいて行われる。そのため、作物の水消費量に応じた給液管理が自動的に行われ、不織布の 水分 状態を常に一定に維持することができる。
  • 作物の根は湿った不織布上に発達し、根系先端部は液貯留部に到達する( 図1 )。 株元周辺の根は空気中に露出し、その部分で酸素吸収が行われるため、培養液への通気がなく とも 作物は順調に生育する。
  • 本方式は、培地資材の毛管吸引力を利用した「毛管水耕」の一種であるが、給液安定化のため の チューブかん水や液貯留部の比重が大きい点からは、不織布を培養液保持材とした固形培地耕 の一種と みなすことができる。そこで、以後この養液栽培方式を「保水シート耕」と呼称する。
  • この方式で、数作にわたってキクと一段トマトの栽培試験を行った。培養液の液温制御は一切 行わなかったが、最高気温が40°C近くなる夏期においても、保水シート耕のキクは土耕栽培と 同等な 生育を示す( 図2 、 表1 )。一段トマトの場合も、夏期高温期に収量・品質が若干低下するものの、 周年的な栽培が可能である( 表2 )。

成果の活用面・留意点

  • 盛夏期の一段トマト栽培では裂果が高頻度で発生するため、果実への水流入を抑制する何らか の対策が必要である。
  • 蒸散が盛んで吸水が活発な場合は、水とイオンの吸収バランスが崩れて貯留液のEC値が高まり 、高塩類ストレスがかかることがあるため注意を要する。

具体的データ

図1 保水シート耕方式の養液栽培装置の基本構造
図1 保水シート耕方式の養液栽培装置の基本構造

図2 様々な養液栽培方式における液温あるいは根圏温度の日変化
図2 様々な養液栽培方式における液温あるいは根圏温度の日変化

表1 土耕及び養液栽培したキクの生長と切り花品質

表2 保水シート耕で生育した一段トマトの季節別の果実生産性

その他

  • 研究課題名:1)養液栽培における養水分制御技術の開発、2)一段採り栽培法・閉鎖型養液 栽培法による果菜類の軽作業・環境保全型栽培技術の開発、3キクの養液栽培システムの開発
  • 予算区分 :1)3)経常、2)国県共同
  • 研究期間 :平成10年度( 1)平成4~8年、2)平成7年~11年、3)平成8~10年)
  • 研究担当者:坂本有加・中島武彦・渡邉慎一・岡野邦夫
  • 発表論文等:1)異なる養液栽培システムにおけるキクの生長および切り花品質、生物環境 調節、36巻2号、1998
    2)Reuse of drainage water for the productionof high quality fruits in single- truss tomato grown in a closed hydroponic system.25th Inter national Horticultural Congress , Brussels, 1998