トマト一段栽培における高EC培養液を利用した果実高品質化技術

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要約

トマト一段栽培においては、高EC培養液の給液時期を変えること で、種々の大きさと糖度を持つ果実を容易に生産することができる。また、こうした 塩類ストレス処理により、夏期高温期に頻発する裂果も防止できる。

  • キーワード: トマト一段栽培、高EC栽培液、糖度を持つ、塩類ストレス、裂果
  • 担当:野菜・茶業試験場 施設生産部 栽培システム研究室
  • 連絡先:0569-72-1490
  • 部会名:野菜・茶業
  • 専門:栽 培
  • 対象:果 菜 類
  • 分類:研 究

背景・ねらい

トマトの一段栽培法は、誘引・整枝が大幅に簡略化され、草勢管理の必要性も少ないため、省 力的な次世代型生産方式として注目されている。また、第1果房の 収穫で栽培が完了するため、多段トマトの高品質化栽培で問題となる長期的な樹勢低下への配 慮を必要としない。そこで、保水シート耕方式で栽培された一段採 りトマトについて、塩類ストレス効果による果実高品質化技術を確立する。

成果の内容・特徴

  • 果実肥大期に、培養液(EC1.2 dSm-1)に食塩を添加してECを5.0又は8.0 dSm-1に高めると、収量や果実新鮮重は低下するが、糖度やクエン酸含有率は高ま る。しかし、果実当たりの乾物重やクエン酸量はほとんど変化しない。糖度上昇効果は、成熟 の進んだ白熟期より未熟な緑熟期からの処理で著しい。ECが5.0 と8.0 dSm-1の間 では処理効果に明瞭な差はない (表1) 。
  • 栽培ベッドからの排液をタンクに貯留し、そこに培養液原液を加えてECを5.0 dSm-1に調整した液を用いても、食塩添加と同様な効果がある。こうした塩類ストレスの付与 時期を変えることで、種々の大きさと糖度を持つ果実を容易に 生産することができる。この場合、一果重と糖度の間には相反する関係が見られる (図1) 。
  • 塩類ストレス処理により、夏期高温期に頻発する裂果が顕著に抑制される。また、 開花直後からの処理は尻腐れ果の発生を助長するが、果実肥大が進んだ開花後8日目以降なら ば問題は生じない (図2) 。
  • 塩類ストレス処理により、根からの吸水量が顕著に減少する (図3) とともに、培養液と果実の間の水ポテンシャル勾配も小さくなる。従って、処理により果実内 の糖やクエン酸濃度が高まるのは、果実への水流入量が減少し果実肥大が抑制されるためと考 えられる。

成果の活用面・留意点

  • 給液ECを5.0dSm-1に制御しても、ベッド内貯留液ECはこれ以上に高まり、根 や葉の生理機能を阻害することがあるので、培養液管理には注意が必要である。
  • 塩類ストレスの付与手段として余剰排液を利用することで、栽培ベッド外への使用 済み培養液の排出量を減らすことができ、環境保全的な養液栽培技術となる。
  • 現在のところ、排液を高濃度化するために培養液原液を添加しているが、肥料の使 用量削減のためには、余剰排液の効率的な濃縮技術を開発することが望ましい。

具体的データ

表1 培養液への食塩添加が一段栽培トマトの収量・品質に及ぼす影響

図1 高EC培養液の施用時期が果実重と糖度に及ぼす影響

図2 高EC培養液の施用時期が障害果発生割合に及ぼす影響

図3 見かけの吸水量の時期別変化と高EC培養液による吸水量の低下

その他

  • 研究課題名:一段採り栽培法・閉鎖型養液栽培法による果菜類の軽作業・環境保全型栽培
  • 技術の開発
  • 予算区分 :実用化促進(国・県共同)
  • 研究期間 :平成11年度(平成7年~11年)
  • 研究担当者:岡野邦夫・坂本有加・渡邉慎一・池田 敬
  • 発表論文等:1)Effects of salinity at two ripening stages on the fruit quality of single-truss tomato grown in hydroponics. J. Hort. Sci. Biotech. 74, 690-693(1999), 2)排液の再利用による一段トマトの閉鎖型養液栽培システムの確立.生物環境調節 37, 63-71(1999), 3)Water relations in fruit cracking of single-truss tomato plants. Environ. Cont. Biol. 37, 153-158(1999), 4)高塩類ストレスによる一段栽培トマトの果実品質向上機構.園学雑68(別1), 221. (1999)