ハスモンヨトウ・キチナーゼ遺伝子のクローニングとタンパク質発現

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要約

ハスモンヨトウからクローニングしたキチナーゼ遺伝子を 、バキュロウイルスに導入し、高いキチナーゼ活性を持つ組換えタンパク質を 得た。本種のキチナーゼとウイルス由来のキチナーゼには、基質特異性及び分泌性 に明瞭な差が認められる。

  • キーワード:ハスモンヨトウ、クローニング、キチナーゼ遺伝子、バキュロウイルス、組換えタンパク質、基質特異性、分泌性
  • 担当:野菜・茶業試験場 環境部 虫害研究室
  • 連絡先:059-268-4644
  • 部会名:野菜・茶業
  • 専門:作物虫害
  • 対象:果菜類・葉菜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

昆虫のクチクラおよび消化管の内膜は、キチンを主成分としているため、キチナーゼを人為的 に投与することで、害虫の成育を阻害できることが期待される。特 に、昆虫が脱皮時に自己のクチクラを分解するために生産するキチナーゼは、他の生物種由来 のキチナーゼに比べて高い効果を持つ可能性がある。そこで、野 菜・花きの重要害虫であるハスモンヨトウのキチナーゼ遺伝子を単離し、組換えタンパク質を 作成してその特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 単離したハスモンヨトウのキチナーゼ遺伝子(DDBJ登録番号:AB032107)は、脱皮期特異 的に表皮細胞で発現する (図1) 。
  • 単離したキチナーゼ遺伝子をバキュロウイルスに導入し、さらにウイルス自身のキ チナーゼ遺伝子をノックアウト(発現停止)することで、ハスモンヨトウ・キチナーゼのみを 生産する組換えウイルスを構築した (図2) 。
  • ハスモンヨトウ・キチナーゼとウイルス・キチナーゼには、低分子のキチンに対す る基質特異性に明瞭な差が認められる (図3) 。
  • ウイルス由来のキチナーゼは、主に昆虫培養細胞内に留まるのに対し、組換えキチ ナーゼは、培地中に速やかに分泌される (図4) 。

成果の活用面・留意点

  • 本遺伝子は、遺伝子組換えによる昆虫ウイルスの改良や、耐虫性野菜・花き品種作出の素 材として有用と考えられる。
  • 組換えキチナーゼは、キチナーゼ阻害物質のスクリーニング試験に利用できる。ま た、微生物農薬の補助剤としての利用も期待される。
  • ハスモンヨトウ・キチナーゼが昆虫の発育に及ぼす効果は未検討である。

具体的データ

図1 ハスモンヨトウ終齢幼虫皮膚におけるキチナーゼ遺伝子の発現変動

図2 野生型ウイルス及び組換えウイルスに感染した昆虫培養細胞上清のSDS-PAGE

図3 ハスモンヨトウ・キチナーゼとウイルス・キチナーゼの基質特異性

図4 ウイルス感染後の昆虫培養細胞中(上)および培養上清中(下)のキチナーゼ活性の変動

その他

  • 研究課題名:昆虫の摂食阻害物質の解明と利用技術の開発
  • 予算区分 :大型別枠(生態秩序)
  • 研究期間 :平成11年度(平成8~10年度)
  • 研究担当者:篠田徹郎・松井正春(農環研)・小林淳(三重大工)
  • 発表論文等:Functional expression of a chitinase isolated from the common cutworm, Spodoptera litura. Insect Biochem Mol Biol (投稿中)