ウスコカクモンハマキとチャノコカクモンハマキの簡易識別法

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要約

ウスコカクモンハマキ Adoxophyes dubia とチャノコカクモンハマキ A. honmai は、雄成虫の前翅前縁褶内にある特異な鱗片群の有無で識別が可能である。両種は実験室内で容易に交雑するが、後代の鱗片群の有無や幼虫期間の長短から雑種の組合せを識別できる。

  • キーワード:ウスコカクモンハマキ、チャノコカクモンハマキ、同胞種、前縁褶、交雑、幼虫期間、チャ害虫
  • 担当:野菜茶研・茶業研究部・虫害研究室
  • 連絡先:0547-45-4693
  • 区分:野菜茶業・茶業、共通基盤・病害虫
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

ウスコカクモンハマキ Adoxophyes dubia は、チャの重要害虫であるチャノコカクモンハマキ A. honmai の同胞種であり、これまで多くの農業現場で混同されてきた。両種は主に生殖器の形態をもとに記載されたが、生殖器による同定には熟練した技術と専門的知識を要し、より簡便な識別技術の開発が求められている。そこで、両種の差異を再検討し、生態的特性の解明や防除技術開発の基礎となる簡易識別法を確立する。

成果の内容・特徴

  • ウスコカクモンハマキとチャノコカクモンハマキは、極めて良く似ており、幼虫や蛹の外部形態から両種を識別するのは困難である。
  • 両種を識別する最も明瞭な外部形態上の差異は、雄成虫の前翅前縁褶内の特異な鱗片群の有無である。ウスコカクモンハマキは、前翅前縁褶の内面がビロード様の特異な鱗片群で紡錘型に裏打ちされているが、チャノコカクモンハマキは、この鱗片群を欠く(図1)。
  • 両種は実験室内で容易に交雑し、高頻度で妊性のある子孫が出来る(表1)。
  • 前翅前縁褶内の特異な鱗片群の有無は遺伝形質であり、両種を識別する形質として妥当である。両種の交雑では、正逆どちらの組合せにおいても、全てのF1雄は鱗片群を有し、F2雄では、鱗片群が有るものと無いものが3:1に分離する。鱗片群の有無は、単純なメンデル遺伝により制御されており、鱗片群のある形質が優性である(図2)。
  • 任意の交配(交雑)組合せが、チャノコカクモンハマキかウスコカクモンハマキか、あるいは両種の交雑組合せであるかを判定するには、子孫の鱗片群の有無を調査すればよい。
  • チャノコカクモンハマキ雌とウスコカクモンハマキ雄の交雑では、F1個体の幼虫期間に大きな雌雄差が生じる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ウスコカクモンハマキの分布調査法として、合成性フェロモントラップで雄を誘引し、得られた雄を前翅前縁褶内の鱗片群の有無で確認する方法が考えられる。特にハマキガ類の生息密度が低い果樹園等では効率的に調査できる。
  • 両種混棲地域の野外個体群から実験系統を確立する際には、導入初期に交雑の有無を確認する必要がある。雌成虫の外部形態による識別は困難であるが、以下の方法により同種のみからなる系統を確立できる。
    チャノコカクモンハマキの系統を得る際、子に鱗片群があれば同腹の個体を排除し、増殖を続ける。
    ウスコカクモンハマキの系統を得る際、同一卵隗の約半数の個体が蛹化した頃蛹の雌雄を鑑別する。蛹の性比が著しく雄に偏っていれば同腹の個体を排除し、増殖を続ける。
  • 両種の交雑個体は、これまで野外からは得られていない。

具体的データ

写真1.ウスコカクモンハマキ特異な鱗片群

表1.実験室内における種間交雑 図2.雄成長前翅前縁褶内鱗片群の遺伝様式

図3.交雑個体(F1)の幼虫期間

その他

  • 研究課題名:ウスコカクモンハマキの分布と茶園における発生生態の解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1999~2001年度
  • 研究担当者:佐藤安志、大野泰史(大阪府大)
  • 発表論文等:1)佐藤(1999) 昆虫学会講要 59:44.
    2)Sato(2000) XXI ICE Abstract:583.
    3)佐藤(2000) 昆虫学会講要 60:35.