有機農産物認証と非認証の果菜類における無機成分とδ15N値の差異

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要約

有機農産物認証された果菜類(トマト、キュウリ、ナス、シシトウ、カボチャ)の無機成分は、表示の無いものと大差ないが、δ15N値は、測定した全ての果菜類で高い値を示し、有機物施用により生育させた野菜の判別法として利用できる可能性がある。

  • キーワード:有機農産物認証、果菜類、無機成分、δ15N値
  • 担当:野菜茶研・果菜研究部・環境制御研究室
  • 連絡先:電話0569-72-1647、電子メールanakano@affrc.go.jp
  • 区分:野菜茶業・野菜生産環境、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

2001年4月から有機農産物の認証制度が改正JAS法のもと始まったが、市場に並ぶ有機農産物が実際に有機質肥料で栽培されたかどうかの判別法は確立していない。
有機農産物(無化学肥料かつ無農薬)を通常栽培の作物と判別する場合、無農薬の判別は検出限界を考慮する必要はあるが、GC-MSなどを用いた残留農薬の分析手法がある。一方で、無化学肥料の判別はその手法自体が提示されていない。
本研究では、有機認証された市販の野菜の無機成分組成を分析し、無表示の野菜との違いを明らかにする。また、窒素安定同位体比の解析を基にその農産物が、無化学肥料で栽培されたかどうかを判別するための基礎的知見を得る。δ15N値とは、試料の15N/14N比(Rsample)と標準試料のその比(Rstandard)から、次の式で計算され(δ15N=[Rsample/Rstandard-1]×1000(‰))、主に生態学の分野での窒素動態の研究に用いられているが、この値を有機質肥料で栽培されたかどうかの判別に用いる。

成果の内容・特徴

  • 5種類の果菜類(トマト、キュウリ、ナス、シシトウ、カボチャ)を有機農産物の認証団体A(熊本県)から2001年7月25日に購入し(表示あり)、同様に熊本市内のスーパーマーケットB社から、同種類の野菜(表示なし)を、2001年7月30日に購入した。それぞれの果菜について「表示あり」と「表示なし」の野菜を3個体ずつ無作為に選択し分析用試料とした。無機元素組成については、各品目を通して、有機認証のない市販野菜と比べ、有意な差がある元素は無い(表1)。
  • 供試した果菜類のδ15N値は、有機農産物の値が表示の無いものに比べ高い(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 有機農産物の認証において、現行では検査員が聞き取りで行う手法が取られているが、このような調査を数値的に保証するために、δ15N値が使用できる可能性がある。
  • 有機農産物と称する農産物のδ15N値がある値を下回った場合、それが有機農産物で無い可能性が考えられ、詳細に検査する対象とする、という使い方が考えられる。
  • 今回調査した果菜類を生産した認証団体Aからの圃場管理の情報によると、化学肥料を20年以上使用せず、有機物は、畦草、稲ワラ、豚糞、牛糞、油粕、米糠などを使用し、毎年10aあたり1~1.5トンを投入していたとのことである。
  • 他の野菜についても,同様の結果が得られるのか、野菜の種類や生産地域を変えて同様の検討を行う必要がある。
  • 施用有機物や土壌のδ15N値と生産物のδ15N値について相関を明らかにする詳細な実験を行う必要がある。

具体的データ

表1 各果菜類の有機JAS表示の有無と無機イオン組成の関係

図1 各果菜類の有機JAS表示の有無とδ15N値の関係

その他

  • 研究課題名:窒素安定同位体比の解析による有機農産物判別技術の開発
  • 予算区分:国産野菜
  • 研究期間:2002
  • 研究担当者:中野明正、上原洋一、篠原信
  • 発表論文等:1)中野ら(2002)土肥誌73(3):307-309.
    2)中野(2002)農業技術57(8):7-10.
    3)中野(2002)農業および園芸77(8):853-859.