昆虫変態のかぎをにぎる幼若ホルモン合成酵素遺伝子
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要約
新規の昆虫成長制御剤開発の優れた分子標的となる幼若ホルモン酸メチル基転移酵素(JHAMT)遺伝子を単離。同遺伝子は、アラタ体における発現変動パターンから、昆虫変態の誘導に重要な機能を持つことが示唆される。
- キーワード:幼若ホルモン、変態、酵素、遺伝子、昆虫成長制御剤
- 担当:野菜茶研・葉根菜研究部・虫害研究室
- 連絡先:電話 059-268-4643、電子メール shinoda@affrc.go.jp
- 区分:野菜茶業・野菜生産環境
- 分類:科学・普及
背景・ねらい
幼若ホルモン(JH)生合成の後期経路に属する酵素群は昆虫特異的なため、ヒトや非標的生物にやさしい昆虫成長制御剤 (IGR)開発の優れた標的分子として期待される。しかし、きわめて微小なJH合成器官であるアラタ体から、生化学的な手法によってJH合成酵素を精製す るのは不可能に近く、その分子実態は永く不明である。そこで、分子生物学的手法を用いて、JH生合成酵素をコードする遺伝子を直接単離しようとする。
成果の内容・特徴
- 完全変態昆虫のアラタ体におけるJH合成は若齢幼虫期には盛んであるが、終齢幼虫になると停止することに着目し、蛍光ディ ファレンシャル・ディスプレイ法により、カイコのアラタ体において4齢期間中は継続的に発現し、終齢(5齢)初期に発現を停止する遺伝子をクローニング。
- 同遺伝子(GeneBank登録番号 AB113578)は278残基のアミノ酸からなる新規のメチル基転移酵素遺伝子をコードする。
- 同遺伝子は、4齢幼虫ではアラタ体でのみ発現が認められる(図1)。
- 同遺伝子から作成した組換えタンパク質は、S-アデノシルメチオニン(SAM)存在下でJH酸を特異的にメチル化する(表1)。
- 上記の結果から、同遺伝子がJH生合成経路の最終段階を司るJH酸メチル基転移酵素(Juvenile hormone acid methyltransferase; JHAMT)をコードすることが明らかである(図2)。
- JHAMT遺伝子は3齢~4齢期に継続的に発現するが、終齢初期に発現量が急速に低下し、その後、蛹化まで発現が認められない(図3)。このことから、JHAMT遺伝子の発現が停止する結果、JH合成が停止し、変態(蛹化)が誘導されることが示唆される。
成果の活用面・留意点
- JHAMT活性を阻害あるいはJHAMT遺伝子の発現を抑制することで早熟変態を誘導できる可能性がある。
- 組換えJHAMTタンパク質はJHAMT阻害剤のin vitroスクリーニングに利用できる。
- カイコJHAMTのホモログがショウジョウバエおよびハマダラカのゲノム中に各1種存在する(AB113579およびEAA09331)。これら3種JHAMTアミノ酸配列の相同性に基づいて野菜害虫のJHAMTがクローニングできる。
具体的データ




その他
- 研究課題名:昆虫の変態抑制に関与する遺伝子の探索と機能解明
- 課題ID:11-04-03-01-03-03
- 予算区分:形態・生理
- 研究期間:2001~2003年度
- 研究担当者:篠田徹郎、糸山享、浜村徹三
- 発表論文等:
1) Shinoda and Itoyama (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:11986-11991.
2)篠田ら (2003) 国際出願番号 PCT/JP03/00415篠田徹郎、糸山享、浜村徹三