湿球黒球温度(WBGT)の推定と栽培施設内の安全作業時間・空間の評価

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要約

高温期の作業環境の評価指標である湿球黒球温度(WBGT)は、気温、湿球温度、日射量から推定可能である。この手法は、作物を栽培したハウス内で、安全に作業ができる空間位置、時刻を検討することに利用できる。

  • キーワード:暑熱環境、湿球黒球温度、作業快適性
  • 担当:野菜茶研・果菜研究部・栽培システム研究室、生育特性研究室、作業技術研究室
  • 連絡先:電話0569-72-1490、電子メール mtaka@affrc.go.jp
  • 区分:野菜茶業・野菜栽培生理
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

高温期の栽培施設内環境は作業者にとって過酷である。作業時の暑熱環境の安全性を評価するのに湿球黒球温度(Wet Bulb Globe Temperature, WBGT,単位は℃)が利用できる。WBGTは日射のある環境では次式で算出される(JIS Z8504)。
WBGT=0.7 Twn + 0.2 Tg + 0.1 Ta ・・・(1)
ここで、Twn:自然湿球温度(℃)、Tg:黒球温度(℃)、Ta:気温(乾球温度、℃)である。しかし、WBGTを算出するには、自然湿球温度(湿球 センサを空間に露出して測定)および黒球温度を特殊な金属球で測定する必要があり、自然湿球温度の水補給にも手間がかかる。そこで、WBGTを一般的な気 象要素より推定する方法を提案し、特別な測器を必要とせずに作業を安全に行える時間・空間の考察手法を示す。

成果の内容・特徴

  • WBGTを推定するために、自然湿球温度Twnの推定式として(2)式が、黒球温度Tgの推定式として(3)式が利用できる。
    Twn=Tw+0.14 S0.51   ・・・(2)
      Tg =Ta+ 0.090 S/(1+0.0037 S) ・・・(3)
    ここで、Twは通風乾湿計による湿球温度で単位は℃、Sは測定位置の日射量で単位はW/m2の値を用いる。
  • WBGTを推定する場合に、自然湿球温度のみに推定値を用いると推定誤差RMSE(平均2乗誤差の平方根)は0.26℃で、自然湿球温度と黒球温度の両方に推定値を用いると推定誤差は0.63℃であった(図1)。実用的には自然湿球温度と黒球温度の両方に推定値を用いても十分利用可能である。
  • 本推定式を用いると、作物を栽培したハウス内で、安全に作業ができる空間位置、時刻の検討に利用できる。例えば、トマトを栽 培した高軒高ハウスのWBGTの時間・空間分布を推定でき、作業のエネルギー代謝率(R.M.R.)が2.0の作業について安全に作業ができる空間位置、 時刻を評価することができる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 上記の推定式(2)や(3)には風速の影響が考慮されてない。ハウスの出入り口や換気窓の付近、および循環扇や換気扇の近くなどでは、これらの推定式では対応できない。
  • いろいろな強度の作業時の限界WBGTの値については、栽培ハウス内作業を対象として提示されたものはないが、一般的な暑熱環境の指標としてJIS-Z8504や産業衛生学会により提示された値が参考となる。

具体的データ

図1 WBGTの推定値と実測値の比較(元データは2002年7月下旬~8月上旬、高さ2.0mで測定)

 

図2 高軒高ハウスの中央うね間におけるWBGTの分布から評価したR.M.R.=2.0(軽作業)の安全作業領域区分(2002/7/24、愛知県大府市)

 

その他

  • 研究課題名:高軒高温室におけるWBGT値を用いた快適作業領域の解析
  • 課題ID:11-02-02-01-15-03、11-02-02-01-16-03、11-02-02-01-18-03
  • 予算区分:交付金(所特定)
  • 研究期間:2002~2003年度
  • 研究担当者:高市益行、細野達夫、黒崎秀仁、渡辺慎一、川嶋浩樹、中野有加