ガレート型カテキン/四級アンモニウムイオン複合体を安定化する「挟み効果」

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要約

ガレート型カテキンは非ガレート型カテキンよりも四級アンモニウムイオンに対する高い結合能力を有する。その結合部位はB環とガロイル基によって形成される空間であり、これら二つの芳香環による「挟み効果」が複合体の安定化に大きく寄与している。

  • キーワード:カテキン類、四級アンモニウムイオン、CH/π相互作用、複合体、挟み効果
  • 担当:野菜茶研・野菜・茶の食味食感・安全性研究チーム
  • 連絡先:電話0547-45-4982
  • 区分:野菜茶業・茶業
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

カテキン類は様々な生理活性を有することが報告されているが、カテキン分子と生体分子間の様々な相互作用がこの活性を調節している。疎水結合や水素結合はその重要な結合力であるが、細胞膜表面には四級アンモニウム構造が存在するため、CH/π(或いはカチオン/π)相互作用も重要な役割を果たしていると考えられる。それ故に、カテキン類の生理活性を分子レベルでとらえるためには、カテキン分子と四級アンモニウムイオンの分子間相互作用を理解する必要がある。そこで、カテキンの分子構造と四級アンモニウムイオンに対する結合能力との関係、さらにその分子認識のメカニズムを解明する。

成果の内容・特徴

  • ガレート型カテキンは非ガレート型カテキンよりも、四級アンモニウムイオン(ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド=BMAC)に対して大きな結合能力をもつ(表1)。
  • 表1に示す化合物1、2、3、4のBMACに対する結合定数から、カテキン分子を構成する各芳香環のBMACに対する結合能力は、ガロイル基>B環>A環の順であると推測される。
  • ガレート型カテキン/BMAC複合体の結合定数は、メチルガレート/BMACの結合定数よりも大きい。この結果は、複合体形成にガロイル基以外の部位が関与していることを示唆する。NOESYスペクトル(空間的に近い核に関する情報を得ることが出来るNMRスペクトル)上で、アンモニウムイオン部分のプロトンとカテキン分子のガロイル基やB環のプロトンとの間にクロスピークが観測されることから(図1)、図2のGB-spaceがアンモニウムイオンとの結合部位である。図2に示されるように、ガレート型カテキンは、いずれもガロイル基とB環による「挟み効果」により複合体の安定化が可能である。
  • 非ガレート型カテキン/BMAC複合体の結合定数は2や3とBMACとの結合定数に近い値となる。これは、図2に示されるように非ガレート型カテキンのB環が擬エクアトリアル位となり易く、その複合体形成には単一の芳香環のみしか関与出来ないためと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 一般的に、ガレート型カテキンの生理活性は非ガレート型カテキンよりも強い。この現象は脂質二重膜に対するガレート型カテキンの高い親和性と密接に関係していることが報告されているが、本成果はその化学的根拠のひとつとなる。
  • 「挟み効果」は、ガレート型カテキンを認識する分子を構築する際にも、分子間相互作用として利用可能である。

具体的データ

表1 四級アンモニウムイオン(BMAC)と各化合物との間の結合定数(M-1)a

図1 ガレート型カテキン/BMAC混合溶液のNOESYスペクトル上で観測される分子間クロスピーク

図2 カテキン分子の3Dモデルと四級アンモニウムイオンの結合部位

その他

  • 研究課題名:野菜・茶の食味食感評価法の高度化と高品質流通技術の開発
  • 課題ID:311-g
  • 予算区分:所内プロ(次世代味覚センサ)
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:林宣之、氏原ともみ
  • 発表論文等:Hayashi et al. (2007) Tetrahedron 63: 9802-9809