オンシツコナジラミ中腸上皮細胞膜はTomato yellow leaf curl virusの侵入を阻止する

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要約

トマト黄化葉巻病の病原ウイルス(TYLCV)の媒介虫タバココナジラミと非媒介虫オンシツコナジラミとでは、両者とも吸汁後2週間までTYLCVが検出される。TYLCVは、前者の中腸細胞内に侵入・循環するが、後者では中腸上皮細胞膜の表面に留まって細胞内侵入が阻止される。

  • キーワード:トマト黄化葉巻病、コナジラミ類、媒介昆虫、TYLCV、中腸上皮細胞膜
  • 担当:野菜茶研・野菜IPM研究チーム
  • 代表連絡先:電話050-3533-3863
  • 区分:野菜茶業・野菜生産環境
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

トマトの難防除虫媒性ウイルス病害であるトマト黄化葉巻病(病原:TYLCV)は、1996年に九州・東海地域で初めて発生が確認され、媒介昆虫タバココナジラミの分布拡大に伴い、東北地域南部まで発生している。タバココナジラミは広範囲の植物種を寄主とし、同じコナジラミ亜科に属するオンシツコナジラミとその寄主範囲を同じくするが、オンシツコナジラミはTYLCVの非媒介虫である。タバココナジラミでの媒介は、感染植物の吸汁液中のウイルスが、中腸細胞内へ侵入後、血リンパに乗って虫体内を循環して唾液腺に達し、健全植物への吸汁の際に唾液と伴にウイルスが放出されて起こることが知られている。そこで、虫体内でのウイルスの動態を2種コナジラミ類において比較解析し、TYLCVの虫媒性が異なる原因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • トマト黄化葉巻病に罹病したトマト葉上で吸汁させたタバココナジラミとオンシツコナジラミから、DNAを抽出してPCR検定すると、両者ともに体内へのTYLCVの取り込み・蓄積が認められる。蓄積ウイルス量は吸汁時間に従って増加する (図1A)。虫体内を循環する血リンパを含む組織からのTYLCVの検出では、前者では検出されるが、後者では検出されない(データ略)。
  • タバココナジラミとオンシツコナジラミに、罹病したトマト葉を24時間吸汁させると、その後TYLCVが感染しない健全キャベツ葉上で飼育しても、虫体内でTYLCVが保持される。TYLCVを媒介しないオンシツコナジラミでも、ウイルス量が低下することなく保持される (図1B)。
  • タバココナジラミの体内では、TYLCVが中腸細胞内に侵入する。一方、オンシツコナジラミでは、TYLCVは中腸管内腔と中腸上皮細胞膜表面に留まるのみで、細胞内への侵入が阻止される(図2)。従って、オンシツコナジラミでは、中腸上皮細胞膜によりTYLCVの侵入が阻止されるために、ウイルスの媒介ができないと考えられる (図3)。

成果の活用面・留意点

  • TYLCVが媒介されるためには中腸上皮細胞内への侵入・循環が必要であるという知見は、TYLCVとタバココナジラミとの親和性を解明する上で貴重な基礎情報となる。
  • オンシツコナジラミでもTYLCVを保持することから、野外における保毒虫の発生調査等では、タバココナジラミとの種判別を正確に行い検定に用いる必要がある。

具体的データ

図1 2種コナジラミ類成虫体内におけるTYLCV濃度の経時的変化(Real-time PCR検定) A: 吸汁中のTYLCV濃度、B: TYLCVを24時間吸汁した後にキャベツ葉上で飼育した場合のTYLCV濃度(グラフ中の縦線は標準偏差を示す。グラフ縦軸は対数表示)

図2 トマト黄化葉巻病に罹病したトマト葉を8日間吸汁した2種コナジラミ類成虫体内でのTYLCV局在部位a: オンシツコナジラミ成虫、b: 図a中赤枠の拡大図(矢印は、中腸上皮細胞膜上のウイルスを示す)、c: タバココナジラミ成虫、d:図c中青枠の拡大図(矢印は、中腸上皮細胞内部のウイルスを示す)。ウイルス存在部位の確認は、抗TYLCV外被タンパク質抗体を用いた組織切片の免疫蛍光顕微鏡観察により実施した。スケールバー:100μm(a, c)、25μm(b, d)

図3 オンシツコナジラミ消化管内のTYLCVの侵入阻害とタバココナジラミにみられるウイルス通過

その他

  • 研究課題名:野菜栽培における土壌微生物、天敵の機能解明と難防除病害虫抑制技術の開発
  • 課題ID:214-k
  • 予算区分:基盤研究費
  • 研究期間:2006-2008年度
  • 研究担当者:大西純、北村登史雄、寺見文宏、本多健一郎
  • 発表論文等:Ohnishi J. et al.(2009)J. Gen. Plant Pathol. 75:131-139