疫病抵抗性トウガラシ品種の病原菌感染時におけるジャスモン酸とサリチル酸の動態
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要約
疫病抵抗性のトウガラシ品種「SCM334」の葉においては、疫病菌接種後にジャスモン酸が急激に生成され、その後、サリチル酸が増加する。この両シグナル物質の作用により、カロース蓄積や過敏感細胞死が誘導され、植物体内への病原菌菌糸の進展が抑えられる。
- キーワード:トウガラシ疫病、病害抵抗性、ジャスモン酸、サリチル酸、過敏感細胞死
- 担当:野菜茶研・野菜IPM研究チーム
- 代表連絡先:電話050-3533-3863
- 区分:野菜茶業・野菜生産環境
- 分類:研究・普及
背景・ねらい
植物の病原菌に対する抵抗性反応には、ジャスモン酸(JA)とサリチル酸(SA)を体内の信号物質とする2つの反応経路があり、両経路は互いの反応を抑制し合うことが知られている。そこで、疫病菌Phytophthora capsiciに対して強い抵抗性を持つトウガラシの品種「SCM334」の抵抗性発現の際の信号伝達経路と、その結果である抵抗性反応を明らかにし、本品種における疫病抵抗性機構の解明に資する。
成果の内容・特徴
- 疫病菌菌糸の細胞内への侵入は、抵抗性品種「SCM334」では、罹病性品種「カリフォルニアワンダー(CW)」と比べて遅れるが、阻止はされない(図1)。
- 「SCM334」の葉では、疫病菌の侵入部位にカロース等が蓄積するとともに、細胞褐変を伴う過敏感細胞死が認められ、それ以上の菌糸の侵入が妨げられる(図2)。CWでは、植物細胞での褐変やカロース等の蓄積は認められず、菌糸が植物細胞に侵入し、さらに葉組織内に伸長する。
- 疫病菌接種後の「SCM334」とCWの葉中のJAとSAをLC-MSにより定量したところ、CWでは無接種と同等かまたは少ない増加量であるのに対して、「SCM334」では菌の接種直後に、抵抗性反応を誘導するとされるJAの蓄積量が急増する。さらに、接種24時間後に、過敏感細胞死を制御するとされるSAの蓄積量が増加する。JAとSAによる両反応経路が時間差をもって制御される(図3)。
- 疫病菌を接種した「SCM334」の葉では、過敏感細胞死に関わる活性酸素類の発生を抑えるカタラーゼのmRNA蓄積がCWと比較して遅れる。また、同様の機能を持つペルオキシダーゼの転写増加が認められず(図4)、過敏感細胞死が起こる。
成果の活用面・留意点
- 植物において、1病原菌に対する抵抗性にJAとSAの両方が関与していることが初めて示唆された。
- 「SCM334」における疫病抵抗性は少数の複数遺伝子により支配されていることが報告されているが、これらの遺伝子が分離された個体における抵抗性反応は明らかでない。
具体的データ




その他
- 研究課題名:野菜栽培における土壌微生物、天敵の機能解明と難防除病害虫制御技術の開発
- 課題ID:214-k
- 予算区分:重点支援、基盤研究費
- 研究期間:2001~2006 年度
- 研究担当者:窪田昌春、上枝素子、西和文、我孫子和雄
- 発表論文等:Ueeda M. et al. (2006) Physiol. Mol. Plant Pathol. 67:149-154.