パーオキシナイトライトに対する[6]-ジンゲロールおよびエラグ酸の酸化・ニトロ化抑制機構

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要約

[6]-ジンゲロールはパーオキシナイトライト由来のラジカルを捕捉後、二量体を形成し、一方、エラグ酸は様々な重合体を形成すると推定される。これら機構により、両物質はパーオキシナイトライトの酸化およびニトロ化を抑制すると考えられる。

  • キーワード:[6]-ジンゲロール、エラグ酸、パーオキシナイトライト、酸化、ニトロ化
  • 担当:野菜茶研・野菜・茶機能性研究チーム
  • 代表連絡先:電話050-3533-3863
  • 区分:野菜茶業・野菜品質・機能性
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

活性窒素種の一種であるパーオキシナイトライトはがんの発生や老化の進行などに関与することが知られている。ショウガの辛味成分である[6]-ジンゲロール(図2のA)およびイチゴなどのバラ科植物に存在するエラジタンニンの加水分解物であるエラグ酸(図2のB)は、パーオキシナイトライトによるDNAの酸化およびタンパク質のチロシン残基のニトロ化を抑制するが、その抑制機構は不明である。そこで、これら成分とパーオキシナイトライトとの反応生成物を同定することにより抑制機構を推定する。

成果の内容・特徴

  • [6]-ジンゲロールとパーオキシナイトライトとを混合すると、HPLC上で明瞭なピークとして観察される反応生成物1が生成する。反応生成物1はベンゼン環上の13位で[6]-ジンゲロールが互いに対称に共有結合した二量体である(表1)。
  • エラグ酸とパーオキシナイトライトとを混合した場合、HPLC上で明瞭なピークを観察できない。また、エラグ酸とパーオキシナイトライトとの混合物の色は赤紫色である(図1の写真(B)、エラグ酸は写真(A))。混合物の13C-NMRスペクトルは、芳香環またはアルケン炭素領域(100-160 ppm)に、7個のエラグ酸由来のシグナルとそれらより強度の低い、反応生成物由来と推定される多数のシグナルを示す(図1)。
  • 反応生成物の構造から、[6]-ジンゲロールは、パーオキシナイトライト由来のラジカルを捕捉し、フェノキシルラジカル中間体を経て二量体を形成すると推定される(図2のA)。一方、エラグ酸は、カテコール型ポリフェノールの褐変反応と同様に、o-キノン中間体を経て様々な重合体を形成すると推定される(図2のB)。これら機構により、[6]-ジンゲロールおよびエラグ酸は、パーオキシナイトライトによる生体分子の酸化およびニトロ化を抑制すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • [6]-ジンゲロールおよびエラグ酸以外のフェノール性成分の酸化・ニトロ化抑制機構の推定や他のラジカル種の捕捉機構の解明に活用できる。
  • 試験管内レベルでの研究である。
  • エラグ酸とパーオキシナイトライトとの反応生成物は未同定である。

具体的データ

表1 反応生成物1のNMRデータ(CDCl3)図1 エラグ酸とパーオキシナイトライトとの混合物の13C-NMRデータ(DMSO-d6)とNMRチューブの写真 * エラグ酸由来のシグナル、(A) エラグ酸、(B)エラグ酸とパーオキシナイトライトとの混合物

図2 パーオキシナイトライトによる酸化およびニトロ化に対する[6]-ジンゲロール(A)およびエラグ酸(B)の抑制機構

その他

  • 研究課題名:野菜が持つ活性窒素種の消去作用の評価
  • 課題ID:312-b
  • 予算区分:基盤研究費
  • 研究期間:2001~2005 年度
  • 研究担当者:一法師克成、伊藤秀和、東敬子、堀江秀樹
  • 発表論文等:1)Ippoushi et al. (2005) Planta Med. 71: 563-566
    2)Ippoushi et al. (2009) Food Chem. 112: 185-188