高速塩基配列解読技術をSuperSAGE法に活用した網羅的遺伝子発現解析法

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

SuperSAGE法に高速塩基配列解読技術を活用することにより開発した大量発現タグ取得技術により、24塩基の発現タグを1度に400万個程度取得できる。発現タグは発現遺伝子と厳格に対応付けることができるため、網羅的な遺伝子発現解析が可能である。

  • キーワード:SuperSAGE、高速塩基配列解読技術、遺伝子発現解析
  • 担当:野菜茶研・野菜ゲノム研究チーム
  • 代表連絡先:電話050-3533-3863
  • 区分:野菜茶業・野菜育種
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

発現遺伝子の配列を代表する「発現タグ(以下タグ)」のカウント数により発現量を評価するSereal Analysis of Gene Expression (SAGE)法は、農作物等の発現遺伝子情報が整備されていない生物種でも網羅的な遺伝子発現解析を可能とする手法である。従来のサンガー法に基づくタグ配列取得には多大な時間・労力・コストを要したが、近年の塩基配列解読技術の飛躍的進歩によりタグ取得の効率が大幅に向上した。しかし、従来法で取得できるタグの塩基長は最大でも21塩基にとどまるため、取得したタグ配列は複数の発現遺伝子に由来するタグが縮重している可能性があり、遺伝子発現変動の厳密な生理学的解釈は困難であった。そこで本研究では、より長鎖のタグ配列(最大27塩基)を取得できるSuperSAGE法(Matsumura et al. (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 15718-15723)と高速塩基配列解読技術を融合させることにより、タグ配列と発現遺伝子との厳格な対応付けを可能とする新たな網羅的遺伝子発現解析技術を開発する。また、ライブラリー識別配列を利用した、複数ライブラリーの混合同時解析も検討する。

成果の内容・特徴

  • 本解析法では組織から抽出したmRNAより長鎖タグ配列(24塩基)のライブラリーを構築し、イルミナ社Genome Analyzer II(GAII)を用いた高速塩基配列解読により発現遺伝子に由来するタグを大量取得する(図1A、B)。
  • ライブラリー構築の際、アダプター1に2塩基のライブラリー識別配列(例:GT等)を挿入することにより、複数ライブラリーの混合同時解析が可能である(図1B)。
  • GAIIによる解読配列に含まれる「アダプター-タグ」構造から24塩基のタグ配列(図1B)を抽出し、ライブラリー識別配列による分類後、タグ種ごとに出現頻度をカウントする。
  • 1回の解析で合計400万程度のタグ取得が可能である。抽出タグにはカウント数の少ないタグが多数含まれる。発現変動解析にはこれら信頼性の低いタグ種を除外する(図2)。
  • ライブラリー間のカウント数差により遺伝子発現の増減を網羅的に比較することができる(図3)。カウント数差の有意性は統計学的手法により検証できる。

成果の活用面・留意点

  • アダプターおよびプライマー配列等、解析方法の詳細については野菜茶業研究所ホームページ上で公開している(http://www.naro.affrc.go.jp/vegetea/joho/index.html)。
  • 本手法で用いるプライマー配列はイルミナ社によって権利保護されており、その使用についてはイルミナ社が定める条件に従う必要がある。
  • 本解析法では長鎖タグ配列(24塩基)を取得するため、EST配列等参照できる情報があれば、タグ配列を遺伝子へ厳密に帰属することができる。またRACE(rapid amplification of cDNA ends) PCR等によりcDNAをクローニングすることも可能である。

具体的データ

図1 開発した遺伝子発現解析法の概略図

図2 抽出したタグ種のカウント数の分布例

図3 遺伝子発現変動の網羅的解析例

その他

  • 研究課題名:野菜におけるDNAマーカー整備及び遺伝子機能解明と利用技術の開発
  • 中課題整理番号:221i
  • 予算区分:新技術・新分野創出
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:山口博隆、大山暁男、布目司、宮武宏治、根来里美、福岡浩之
  • 発表論文等:Yamaguchi H. et al. (2009) J. Exp. Bot. doi:10.1093/jxb/erp313