オランダの施設トマト品種の多収化の要因は光利用効率向上である

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要約

オランダの施設トマト品種の多収化は、光利用効率の向上に基づく植物体の総乾物生産の増加による。また、光利用効率の向上は、個葉光合成速度の増加および群落吸光係数の低下による。日本品種の光利用効率は現在のオランダ品種に比べて低い。

  • キーワード:トマト、オランダ、品種、収量、乾物生産、光利用効率、個葉光合成
  • 担当:野菜茶研・高収益施設野菜研究チーム
  • 代表連絡先:電話0569-72-1166
  • 区分:野菜茶業・野菜栽培生理
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

オランダにおける施設トマトの多収化は著しく、収量はわが国の2倍以上である。この理由としては施設性能および栽培技術の向上が大きいが、現在の栽培環境に適応した多収品種の育成も大きい。多収化の仕組みを明らかにするには収量構成要素のうち関与している要因と要素間の関係を明らかにする必要がある。そこで新旧オランダ品種および日本品種について現在の栽培条件で収量構成要素の差異を調べ、多収化の要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 1950年から2000年までに発表されたオランダ品種では、新しい品種ほど果実収量(新鮮重)が多い。また、乾物果実収量も新しい品種ほど多く、発表年との間には正の相関関係がある。現在のオランダ品種に比べて日本品種の乾物果実収量は低い(図1A)。
  • オランダの栽培環境下では、発表年が新しいオランダ品種ほど、作物群落の積算受光量に対する総乾物生産の効率を示す光利用効率が高く、群落内の光減衰率を示す吸光係数は小さく、個葉光合成速度は高い。現在のオランダ品種に比べて、日本品種の光利用効率および個葉光合成速度は低く、吸光係数は高い(図1B、C、D)。
  • オランダ品種の発表年と各収量構成要素との相関関係をみると、果実収量(新鮮重)、乾物果実収量、植物体の総乾物生産、光利用効率、個葉光合成速度、群落の吸光係数において有意な相関関係がみられるが、その他の要素と発表年との間には相関関係はみられない。ここで相関関係のみられる要素は、多収化の観点で現在のオランダ品種が日本品種に比べて優れている要素である(図2)。
  • 各収量構成要素間の相関関係からも多収化に貢献している要素関係は裏付けられる。

成果の活用面・留意点

  • 現在のトマトの多収化では、果実への乾物分配率の増加よりむしろ、光利用効率の向上、総乾物生産の増加の方が重要である。
  • 日本品種の収量の低い理由としては、果実乾物率の高さが一因であるが、光利用効率の違いも大きい。乾物率を下げずに日本品種を多収化するには、受光態勢(吸光係数)および個葉光合成速度を改善した光利用効率の高い品種の育成が必要である。なお、受光態勢の改善には、節間長、葉長、葉幅および葉角度が関与する。
  • 個葉光合成速度が新しい品種ほど高い点は、トウモロコシおよびオランダの施設トマト以外には報告がない。イネ、ムギなどの他作物の多収化の要因としては群落吸光係数の低下が多い。
  • 試験は、各年代の代表的多収品種を用い、オランダの現代の栽培環境(ワーゲニンゲン大学フェンロー温室、ロックウール・ハイワイヤー栽培)で7~12月に行っている。日本品種にとっては最適環境ではない可能性がある。個葉光合成速度は、上位葉において1500 μmol・m-2・s-1 PPFおよび1000 μmol・mol-1 CO2条件で測定している。

具体的データ

図1 トマト品種の発表年と乾物果実収量(A)、光利用効率(B)、群落の吸光係数(C)および個葉光合成速度(D)との関係

図2 施設トマトの収量増加に関係する収量構成要素および品種発表年と各要素との相関関係

その他

  • 研究課題名:トマトを中心とした高収益施設生産のための多収、低コスト及び省力化技術の開発
  • 中課題整理番号:213a
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間: 2007~2009年度
  • 研究担当者:東出忠桐
  • 発表論文等:Higashide T. and Heuvelink E.(2009)J. Am. Soc. Hort. Sci. 134:460-465