カフェインレスチャ品種育成のための育種素材とカフェインレス形質の遺伝様式

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要約

チャ近縁種「タリエンシス赤芽」に見出されたカフェインレス形質は、チャとの種間雑種後代にも遺伝し、1遺伝子座に支配される劣性形質と推察される。カフェインレス遺伝子をホモまたはヘテロに有する系統は、カフェインレスチャ育種素材として有望である。

  • キーワード:カフェインレスチャ、Camellia taliensis、タリエンシス赤芽、茶中間母本農6号
  • 担当:野菜茶研・野菜・茶機能性研究チーム
  • 代表連絡先:電話0993-76-2126
  • 区分:野菜茶業・茶業
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

カフェインは中枢神経刺激作用を有し、茶の嗜好性や機能性と直接関わる成分である。しかし、感受性の強い老年者や年少者には、カフェインが過度の刺激となってしまうこともあり、以前からカフェインレス茶に対する要望が大きい。カフェインレス茶の製造法としては、工程の中で工業的にカフェインを抽出・除去する方法があるが、高コスト・低品質になることは避けられない。低コストで高品質なカフェインレス茶を製造するためには、カフェインをほとんど含まないチャ品種を育成することが望ましい。これまで、カフェインレスの育種素材は世界的にも知られていなかったが、Camellia taliensisとチャとの種間雑種「茶中間母本農6号」の自然交雑により得られた個体群中にカフェイン含有量が0.2%以下の個体を見出した。そこで、花粉親の明らかな分離世代を検定することにより、カフェインレス形質の遺伝様式を推定し、「茶中間母本農6号」等のカフェインレスチャ育種素材としての可能性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「タリエンシス赤芽」(Camellia taliensis)はカフェインをほとんど含まない。しかし、「タリエンシス赤芽」とチャとの種間雑種である「茶中間母本農6号」や「枕F1-95180」のカフェイン含量は、「やぶきた」と同等かそれ以上である(表1)。一方、「茶中間母本農6号」と「枕F1-95180」を用いたきょうだい交配により得られた個体群には、「タリエンシス赤芽」と同様にカフェインレス形質を発現する個体が出現する(図1)。きょうだい交配により得られた個体群は、カフェインを含有する個体とカフェインレスの個体がほぼ3:1に分離し、カフェインレス形質は1遺伝子座に支配される劣性形質と推察される。
  • カフェインレス遺伝子をヘテロに有すると推察される「茶中間母本農6号」と「枕F1-95180」、およびそれらの後代で分離するカフェインレス個体は、カフェインレスチャ育種素材として有望である。
  • 「タリエンシス赤芽」とその後代のカフェインレス個体は、カフェインの代わりに前駆物質であるテオブロミンを多く含む(表1図1)。

成果の活用面・留意点

  • カフェインレス遺伝子についてヘテロ接合の個体は、外観・成分の特性等においては、カフェインレス遺伝子を持たない個体との間に差異がなく、次世代を展開するまで遺伝子型が明らかにならないので、選抜には注意を要する。
  • 「茶中間母本農6号」は「タリエンシス赤芽」と「おくむさし」の交配から得られたと報告されているが、SSRマーカー解析の結果、「おくむさし」が「茶中間母本農6号」の花粉親でないことが明らかになった。育種素材として「茶中間母本農6号」を用いる際には、当該品種の花粉親が「おくむさし」ではないことに留意して交配組み合わせを選定する必要がある。

具体的データ

表1 「タリエンシス赤芽」とその後代におけるカフェインとテオブロミンの含量

図1 「茶中間母本農6号」と「枕」のきょうだい交配により得られた個体群 F1-95180 におけるカフェイン含量およびテオブロミン含量の分布

その他

  • 研究課題名:茶におけるカフェインレス個体出現の遺伝的メカニズムの解明及び低カフェイン系統の選抜
  • 中課題整理番号:312b
  • 予算区分:科研費、基盤
  • 研究期間:2004~2008年度
  • 研究担当者:荻野暁子、田中淳一、谷口郁也
  • 発表論文等:Ogino A. et al.(2009)Breed. Sci. 59:277-283