ムギヒゲナガアブラムシは天敵寄生蜂ギフアブラバチの代替寄主として利用できる
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要約
ギフアブラバチはムギヒゲナガアブラムシに寄生して正常に発育し、羽化した成虫は野菜害虫のジャガイモヒゲナガアブラムシやモモアカアブラムシに寄生する。ムギヒゲナガアブラムシはギフアブラバチのバンカー法や大量増殖の代替寄主として利用できる。
- キーワード:ギフアブラバチ、ムギヒゲナガアブラムシ、天敵、代替寄主、バンカー法
- 担当:野菜茶研・野菜IPM研究チーム
- 代表連絡先:電話050-3533-3863
- 区分:野菜茶業・野菜生産環境
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
殺虫剤の使用を減らした施設栽培のナス、ピーマンでは、ジャガイモヒゲナガアブラムシが発生し問題となっている。施設栽培野菜類のアブラムシ防除に利用されるコレマンアブラバチは、本アブラムシに寄生しないため、土着天敵寄生蜂のギフアブラバチがコレマンアブラバチに替わる有効な防除資材として期待されている。増殖率の高いアブラムシ類の防除には、発生前から天敵とその増殖用の代替餌(代替寄主)をほ場内に導入するバンカー法が有効である。そこで、ギフアブラバチを利用したバンカー法を開発する目的で、ナス、ピーマンを加害せず本寄生蜂の増殖が可能な代替寄主アブラムシを選定する。
成果の内容・特徴
- ギフアブラバチに与えた代替寄主候補アブラムシ6種の中で、本種の寄生率が最も高かったのは、ムギヒゲナガアブラムシである。本アブラムシに対する寄生率は、野菜害虫のジャガイモヒゲナガアブラムシでの寄生率よりも有意に高く、本種の野外での主要な寄主であるモモアカアブラムシと同程度である(図1)。また、ムギヒゲナガアブラムシマミーからのギフアブラバチ成虫の羽化率も96.7%と非常に高い(図2)。
- ムギヒゲナガアブラムシに寄生したギフアブラバチの発育期間は、温度25°Cで平均11.3日であり、モモアカアブラムシにおける発育期間と有意差がない(表1)。また、ムギヒゲナガアブラムシに寄生して発育したアブラバチ雌成虫の体サイズも、モモアカアブラムシで発育した個体と有意差がない(表1)。
- ムギヒゲナガアブラムシを寄主として飼育したギフアブラバチは、ジャガイモヒゲナガアブラムシやモモアカアブラムシに寄生できる。両アブラムシに対する寄生率は、モモアカアブラムシで飼育したアブラバチと同程度か有意に高い(図3)。
- 以上のことから、ムギヒゲナガアブラムシはギフアブラバチの寄主として適しており、ギフアブラバチのバンカー法や大量増殖の代替寄主として利用できる。
成果の活用面・留意点
- ムギヒゲナガアブラムシはオオムギ、コムギの苗を餌として飼育できる。ムギヒゲナガアブラムシとギフアブラバチの飼育方法は、「生物機能を活用した病害虫・雑草管理と肥料削減:最新技術集(2009)」が参考になる。
- ギフアブラバチは生物農薬として登録されていない。本種を特定防除資材として使用する際には、土着天敵の増殖利用に関する農林水産省の通知(20消安第11885号 特定農薬(特定防除資材)として指定された天敵の留意事項について)を遵守する。
- ムギヒゲナガアブラムシはムギ類の害虫だが、北海道のコムギ栽培以外で実害が発生した例はほとんどないため、本州以南では、バンカー法で増殖した本種が野外のムギ類を加害する可能性は低い。
具体的データ
その他
- 研究課題名:野菜栽培における土壌微生物、天敵の機能解明と難防除病害虫抑制技術の開発
- 中課題整理番号:214k
- 予算区分:委託プロ(生物機能)
- 研究期間:2003~2008年度
- 研究担当者:太田泉、本多健一郎
- 発表論文等:
1)Ohta I. and K. Honda(2010)Appl. Entomol. Zool.45:233-238
2)太田(2009)生物機能を活用した病害虫・雑草管理と肥料削減:最新技術集、p104-107