2,3-trans-ガレート型カテキンを認識する水溶性非環状ファン化合物

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要約

3つの芳香環から構成される水溶性非環状ファンレセプター(1、2)は、8種類のカテキン類(EGCG、ECG、GCG、CG、EGC、EC、CG、C)と水中で1:1の複合体を形成する。特にレセプター(1)は2,3-trans-ガレート型カテキンに対して高い親和性を有する。

  • キーワード:非環状ファン化合物、カテキン類、複合体、センシングデバイス
  • 担当:野菜茶研・野菜・茶の食味食感・安全性研究チーム
  • 代表連絡先:電話0547-45-4101
  • 区分:野菜茶業・茶業、食品
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

カテキン類に対する高度なセンシング技術を実現するためには、その分子構造を識別するレセプター分子の開発が不可欠である。カテキン類のような芳香族化合物の水中における分子認識は、これまでシクロファンやシクロデキストリン等の環状化合物を利用して行われてきた。しかし、センシングデバイスへの応用を考慮すると、合成の簡便さから非環状化合物を用いる方が有利である。そこで、水溶性非環状ファン化合物を化学合成し、カテキン類との親和性を評価することにより、レセプター分子としての有効性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • レセプター(1、2)は、イソフタロイルクロリドとフタロイルクロリドからそれぞれ4工程で簡便に合成することができる(図1)。
  • レセプター(1、2)は共に、8種類のカテキン類(EGCG、ECG、GCG、CG、EGC、EC、CG、C)と水中で化学量論比1:1の複合体を形成する(1H-NMRを用いたJobプロットによる解析)。
  • レセプター(1)は非ガレート型カテキンよりもガレート型カテキンと強く結合する。さらに、ガレート型カテキンの中では、2,3-trans型に高い親和性を示す(表1)。
  • レセプター(2)も、2,3-trans-ガレート型カテキンに対して相対的に高い親和性を有する傾向はあるが、レセプター(1)と比較すると、その結合力は小さい(表1)。
  • レセプター(1)とGCG(2,3-trans-ガレート型カテキン)の混合水溶液のNOESYスペクトル(空間的に近い核に関する情報が得られるNMRスペクトル)は、図2(a)の両矢印で結ばれたプロトン間に分子間のクロスピークを与える。したがって、2,3-trans-ガレート型カテキンに対するレセプター(1)の結合部位は三つの芳香環で囲まれた空間であると推測される。
  • レセプター(1)とEGCG(2,3-cis-ガレート型カテキン)の混合水溶液のNOESYスペクトルは、図2(b)の両矢印で結ばれたプロトン間に分子間のクロスピークを与える。この結果は、レセプター(1)と2,3-cis-ガレート型カテキンの間に、同程度のエネルギーを持つ複数の複合体構造が存在することを示唆する。
  • レセプター(1)がカテキン類の化学構造の差異を認識可能である事実は、レセプター分子として非環状ファン化合物の有効性を示すものである。

成果の活用面・留意点

  • レセプター(1)の化学構造は、カテキン類に応答するセンサーやクロマトグラフィーカラム充填剤の修飾に応用可能である。

具体的データ

図1 レセプター(1、2)の合成

表1 1H-NMR滴定法によって算出されたレセプター(1、2)と8種類のカテキン類との重水中(300K)における結合定数(M1)

図2 レセプター(1)とGCGおよびEGCGの水溶液のNOESYスペクトル上で観測される分子間のクロスピーク(図中の矢印で結ばれるプロトン同士は空間的に近い位置にある)

その他

  • 研究課題名:野菜・茶の食味食感評価法の高度化と高品質流通技術の開発
  • 中課題整理番号:311g
  • 予算区分:所内プロ(次世代味覚センサ)
  • 研究期間:2008~2009年度
  • 研究担当者:林宣之、氏原ともみ
  • 発表論文等:Hayashi N. and Ujihara T.(2008)J. Org. Chem. 73:4848-4854