根こぶ病強度抵抗性のマーカー選抜が可能な「はくさい中間母本農9号」

要約

DNAマーカーにより二つの根こぶ病抵抗性遺伝子(Crr1Crr2)を選抜した「はくさい中間母本農9号」は、根こぶ病菌系「No.5」に対して安定した抵抗性を示す。選抜マーカーは市販F1品種との識別性が高く、交雑後代から抵抗性個体を効率的に選抜できる。

  • キーワード:ハクサイ、根こぶ病抵抗性、マーカー選抜、SSR
  • 担当:野菜茶研・野菜ゲノム研究チーム、野菜育種研究チーム
  • 代表連絡先:電話050-3533-3863
  • 区分:野菜茶業・野菜育種
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

根こぶ病はアブラナ科野菜にとって難防除土壌病害の一つであり、近年根こぶ病菌の病原性の分化により抵抗性品種の罹病化が問題となっている。罹病化の主要因は品種の抵抗性が限られた遺伝子に依存していることであり、宿主範囲の広い根こぶ病菌系「No.5」にはほとんどの品種は抵抗性がない。「No.5」のような多犯性の菌系に対する抵抗性を効率よく選抜できる手法の開発が必要である。そこで、DNAマーカーで効率的に抵抗性系統を選抜できるハクサイ中間母本を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「はくさい中間母本農9号」は、根こぶ病罹病性の「はくさい中間母本農7号」(PL7)と飼料用カブ「Siloga」由来の抵抗性系統「G004」との交雑F3個体に、PL7を反復親として用いて、連続戻し交雑とマーカー選抜を繰り返し、根こぶ病抵抗性遺伝子Crr1Crr2をホモに固定し育成された品種である(図1)。その形状は長円筒形、球重が2kg程度であり、淡黄色の球内色を有し、PL7に類似している(図2)。
  • Crr1Crr2を挟み込むそれぞれ2つのSSRマーカー型が「はくさい中間母本農9号」と同じ品種は極めて少ないため、これらのマーカーを用いることにより、「はくさい中間母本農9号」と市販根こぶ病抵抗性F1品種との交雑後代の中からCrr1Crr2をもつ個体を効率的に選抜できる(表1)。
  • Hatakeyamaら(2004, Breed. Sci. 54:197-201)の分類に基づく、グループ1に属する「No.5」菌に対して、既存の根こぶ病抵抗性中間母本(農1~5号)や市販の抵抗性F1品種では、全個体が罹病性もしくは罹病性個体と抵抗性個体が分離する。これに対して、「はくさい中間母本農9号」は「No.5」菌に対しても安定した抵抗性を示す(表2)。
  • マーカー選抜を利用して、「はくさい中間母本農9号」と罹病性系統とのF1に罹病性系統との戻し交雑を2回行い、自殖した後代系統のうちCrr1Crr2に連鎖する2つのマーカー型が「はくさい中間母本農9号」と同じ型をもつ個体は「No.5」菌に抵抗性となる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 「はくさい中間母本農9号」とマーカー選抜を用いることにより、根こぶ病強度抵抗性ハクサイ品種を効率的に育成できる。また、ナバナ、カブ等のBrassica rapa に属する他のアブラナ科野菜の根こぶ病強度抵抗性品種の育成にも使用可能である。
  • Crr1Crr2の抵抗性は、根こぶ病の菌系によっていずれも不完全優性または劣性形質として遺伝する。
  • グループ3に属する根こぶ病菌系に対しては、「はくさい中間母本農9号」は罹病する場合もある。

具体的データ

「はくさい中間母本農9号」の育成系譜図

「はくさい中間母本農9号」の形状「はくさい中間母本農9 号」のCrr1 とCrr2 に連鎖するマーカーの増幅断片長(bp)と根こ ぶ病抵抗性48F1 品種内のアリル頻度

病土挿入法による根こぶ病抵抗性検定(グループ1「No.5」菌)による「は くさい中間母本農9号」の抵抗性程度の比較

その他

  • 研究課題名:病虫害抵抗性、省力・機械化適性、良食味等を有する野菜品種の育成
  • 中課題整理番号:211j.1
  • 予算区分:基盤、委託プロ(DNAマーカー)
  • 研究期間:2003~2008年度
  • 研究担当者:松元哲、畠山勝徳、吹野伸子、鈴木徹、佐藤隆徳、石田正彦、吉秋斎、小原隆由、小島昭夫、坂田好輝
  • 発表論文等:1)松元ら「アブラナ科植物根こぶ病に対する抵抗性遺伝子検出用
    マイクロサテライトマーカー、およびその利用」特許第4366494号
    2)松元ら「はくさい中間母本農9号」品種登録出願2009年4月23日(第23692号)