トマトハイワイヤー誘引栽培での誘引線と作業者の適正な位置関係

要約

トマトハイワイヤー誘引栽培でのつる下ろし作業において、肩部への筋力負担が最も小さい作業位置は、高所作業台車の足場から誘引線までの高さが作業者の身長比0.6~0.8、作業者から誘引線までの水平距離が身長比0.25~0.3の付近である。

  • キーワード:筋力負担、トマト、つる下ろし作業、積分筋電位
  • 担当:野菜茶研・高収益施設野菜研究チーム
  • 代表連絡先:電話0569-72-1564
  • 区分:野菜茶業・野菜栽培生理、共通基盤・作業技術
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

トマトのハイワイヤー誘引栽培におけるつる下ろし作業では、無理な姿勢で重量物を持ち上げる動作が行われることもあり、他の作業に比べて大きな負担となっている(図1)。また、近年は雇用労働力を活用する大規模な生産施設が増えており、様々な年齢や体格の作業者が安全で快適に作業できることが求められている。さらに、多収化栽培技術の研究が進められており、こうした技術が普及すれば株に着果する果実質量が増加し、つる下ろし作業時の負担は今以上に増えることが懸念される。そこで、肩の筋肉の積分筋電位(筋肉の活動の活発さを示す指標であり、筋力負担が大きいほど大きな値を示す。以下iEMGとする。)を指標として筋力負担を小さくできる作業位置を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 誘引線高さを変化させた際の各筋肉部位のiEMGでは僧帽筋上部と三角筋前部の2か所の変化が明瞭であり、作業による筋力負担は、これらの部位だけで評価できる(図2)。
  • つり下げ負荷を変化させた時のiEMGは右腕、左腕、両腕のいずれの方法で作業を行っても、負荷の大きさに応じて増加する(図3)。
  • iEMGの最大値を1、最小値を0に揃えて被験者6名分(年齢30代~60代、身長160~180cm)を平均して得られたiEMG'では、僧帽筋上部は誘引線高さに応じて負荷が大きくなり、三角筋前部は誘引線高さに加えて身体からの水平距離に応じて負荷が大きくなる。(図4)。
  • iEMG'が最小を示す誘引線の垂直高さは身長比0.6付近であるが、実際の作業環境での作業高さのばらつきを考慮した場合、作業者の身長比0.6~0.8(肩の高さ)までは筋力負担の極端な上昇は見られないため許容範囲内である。また、誘引線までの水平距離は近いほど筋力負担が減るが、株に接近しすぎると葉と干渉して作業が困難になるため身長比0.25~0.3の範囲にすることが望ましい(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 誘引地上高3mでトマト品種「グレース」を栽培して測定した一株のつり下げ負荷は、測定日ごとの平均値で3.6~5.8kgf(35~57N)、6ヶ月間の平均値は4.6kgf(45N)である。ただし、株ごとのばらつきは大きく、平均値の2倍近い株や平均値の半分程度の株も存在する。
  • つる下ろし作業性評価は作業者と誘引線の位置関係を様々に変えて、重りを移動させる方法で各測定点ごとに10回、40秒間のつる下ろし作業の模擬動作を行い、iEMGの測定を行なった。
  • この成果を適用する上での作業姿勢は、作業者が胴体の曲げやひねりを生じない姿勢で直立し、手の届く範囲の植物に対して作業を行うことが前提である。
  • 図4では作業者の身長より上に誘引線があった場合の筋力負担の様子が示されていないが、身長より上ではさらに筋力負担が増大していくため、作業には適さない。

具体的データ

誘引線高さと 水平距離の定義測定部位ごとのiEMG の反応例と主要な筋肉部位

負荷に対するiEMG の反応例誘引線の位置と筋力負担の関係

その他

  • 研究課題名:トマトを中心とした高収益施設生産のための多収、低コスト及び省力化技術の開発
  • 中課題整理番号:213a
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:黒崎秀仁、大森弘美、高市益行、佐々木英和
  • 発表論文等:黒崎ら(2010)農作業研究、45(4):203-211