トマトのリコペンの最適抽出溶媒の選定とこれを用いた簡易迅速定量法

要約

ジエチルエーテル:メタノール=7:3(v/v)はトマトに含まれるリコペンを最も高い効率で抽出できる有機溶媒である。本溶媒による抽出液の505 nmの吸光度と既知の吸収係数からリコペンが迅速に定量できる。

  • キーワード:トマト、リコペン、簡易迅速定量法、抽出溶媒、吸収係数
  • 担当:野菜茶研・野菜・茶の食味食感・安全性研究チーム
  • 代表連絡先:電話050-3533-3863
  • 区分:野菜茶業・野菜品質・機能性、食品
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

桃色系や赤色系トマトに含まれるリコペンは抗酸化能がβ-カロテンよりも2倍、ビタミンEよりも100倍以上高いと言われ、機能性成分として注目されているだけでなく、熟度評価にも利用されている。
トマトに含まれるリコペンを定量する際に用いる抽出溶媒としては、これまでに様々な有機溶媒の使用が報告されているが、溶媒によっては抽出効率が異なるなどの事例が認められる。一方、リコペンの測定法に関しては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が汎用されているが、操作が煩雑な上に、測定に長時間を要することから簡易かつ迅速な測定法の開発が求められている。その点、トマトの色素組成は比較的単純なことから、抽出液の吸光度を用いて簡易迅速に定量出来る可能性が高い。そこで、抽出効率が高い有機溶媒を選定するとともに、分光光度計を用いる簡易迅速定量法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 従来の簡易迅速定量法で抽出溶媒として使用されてきたアセトン:n-ヘキサン=4:6(v/v)などn-ヘキサンを含む溶媒やβ-カロテンの抽出に使用されるエタノールでは抽出効率が低く、ジエチルエーテル:メタノール=7:3(v/v)が最も抽出効率が高い(表1)。
  • 分析機器は可視域(505nm)の吸光度の測定が可能な分光光度計があれば良く、測定は5分以内で終了可能である(図1)。既知のリコペンの吸収係数(濃度1%かつ光路長1cmの時に505 nmで3150)を用いて次式により定量値を算出する。
    定量値を算出する式
  • 熟度や品種の異なる桃色系および赤色系トマトに本法を適用した定量値は、HPLCを用いる妥当性の高い定量値(伊藤らの方法2009)と相関が高い(n=37、相関係数=0.98)(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 有機溶媒を使用するため、抽出操作はドラフト内で行い、安全に配慮して実験を行う。
  • 抽出および吸光度測定操作では揮発性の高い有機溶媒を使用するので、25°C以下の一定の室温下で実施する。抽出液を回収したメスフラスコは4°C以下で保存し、総容量を100mLに調整するときに室温(22~25°C)に戻す。吸光度を測定する際は、蓋付きのセルの使用により有機溶媒の揮発を防止する。
  • リコペン含有量の高いトマトでは、抽出損失をできるだけ少なくするために、抽出回数を増やす必要がある。
  • 本法は桃色系、赤色系トマトに適用できる。

具体的データ

各種有機溶媒のリコペン抽出効率

トマトに含まれるリコペンの簡易 迅速定量法の手順 図2.HPLC を用いた妥当性の高い定量 法と簡易迅速定量法による定量値 の相関

その他

  • 研究課題名:野菜の安全性評価法の高度化技術の開発
  • 中課題整理番号:323c
  • 予算区分:委託プロ(食品)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:伊藤秀和、堀江秀樹
  • 発表論文等:Ito H. and Horie H. (2009) Bull. Natl. Inst. Veg. & Tea Sci. (8):165-173