客土圃場を想定した移植栽培によるホウレンソウ可食部のカドミウム濃度抑制

要約

ホウレンソウをセル成型苗を用いて移植栽培すると、土壌深層における根系発達が抑制される。カドミウム(Cd)汚染土壌に20~40cmの客土をした木製枠における栽培では、移植栽培によりホウレンソウ可食部のCd濃度を5~8割程度低減できる。

  • キーワード:ホウレンソウ、カドミウム、客土、セル成型苗、移植栽培、根域制御
  • 担当:野菜茶研・特命チーム員(資源循環・溶脱低減研究チーム)
  • 代表連絡先:電話029-838-7312
  • 区分:野菜茶業・野菜生産環境、関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

野菜のカドミウム(Cd)濃度の国際基準値が定められ、日本においても対応を迫られる可能性があるため、野菜のCd濃度抑制対策技術が求められている。客土や天地返しは、Cd汚染圃場における水稲のCd吸収抑制対策として広く普及しているが、ホウレンソウの場合、水稲と比べてより多くの客土厚が必要であり、客土厚が十分に確保できない場合、透水遮根シートで根域を制限する必要があった。そこで、高コストである透水遮根シートの敷設に替わる簡易なCd抑制技術として、セル成型苗を用いた移植栽培の効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ホウレンソウのセル成型苗を、根箱で移植栽培すると、直播栽培と比べて深層(深さ20cm以下の層)における根系の発達が抑制される(図1)。
  • 客土圃場を想定し、Cd汚染土に非汚染土を客土して充填した木製枠(ビニールハウス内に設置)を用いたモデル栽培試験において、セル成型苗を用いて移植栽培したホウレンソウでは、作期および品種が異なる場合でも、直播栽培したホウレンソウと比べ、可食部Cd濃度が低下する。Cd濃度抑制効果は客土厚により異なり、客土厚20cmでは51~55%、客土厚40cmでは64~83%低下する(図2)。移植栽培による収量低下は認められない(データ略)。
  • 客土厚40cmの場合、移植栽培によりホウレンソウ可食部Cd濃度の個体差が小さくなり、Cd濃度が安定する傾向を示す(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 客土対策を施した水田転作畑等で使用できる。
  • 200穴セルトレイとセル成型育苗用培養土(ナプラ養土、ヤンマー)を用い、2株/セルで約20日間育苗(本葉約4枚展開)した。
  • 本研究における客土処理では、床締めは行っていない。
  • 本成果は、黒ボク土と木製枠を用いたモデル栽培試験で得られたものであり、実際の栽培圃場では、気象・土壌条件や品種等により、抑制効果が変動する可能性がある。
  • セル成型苗を用いたホウレンソウの移植栽培技術は、近畿中国四国農業研究センターにより機械移植も含めて体系化されている。

具体的データ

ホウレンソウ根系分布に及ぼす 移植栽培の影響

客土圃場におけるホウレンソウの Cd濃度に及ぼす移植栽培の影響

その他

  • 研究課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心にした農業生産活動規範の推進のための土壌管理及び窒素負荷予測技術の開発
  • 中課題整理番号:214q.1
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:菊地直、加藤直人、伊藤純雄