遺伝子型データに基づいたアサインメントテストによるネギの品種識別

要約

マルチローカス遺伝子型を基にしたアサインメントテストを行うことにより、他殖性作物であり品種内多型を有するネギの品種識別が可能であるが、精度の高い識別のためには複数個体の遺伝子型に基づくグループ単位でのアサインメントテストが適当である。

  • キーワード:ネギ、アサインメントテスト、SSRマーカー、分類、品種識別
  • 担当:野菜茶研・野菜育種研究チーム
  • 代表連絡先:電話050-3533-3863
  • 区分:野菜茶業・野菜育種
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

品種の偽装表示の防止および育成者権の保護のため、DNAマーカーによる品種識別技術が有効である。しかし、ネギは他殖性であることから、一つの品種のすべての個体が同一の遺伝子型で固定しているわけではない。集団遺伝学で用いられるアサインメントテスト(assignment test)は、ある個体のマルチローカス(multilocus)遺伝子型(個々の遺伝子座における対立遺伝子の組合せとしての遺伝子型)が、どの集団で生じる確率が最も高くなるか、各集団の対立遺伝子頻度を基に算出する方法である。そこで、アサインメントテストによる品種識別の有効性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 放任受粉のネギ30品種および近縁種2種(各品種・系統22~24個体)を用いた場合のSSRマーカー29座における対立遺伝子頻度より算出した遺伝距離に基づくクラスターは、形態特性に基づく分類である加賀群、千住群および九条群とほぼ対応する(図1)。
  • ネギ30品種および近縁種2種のマルチローカス遺伝子型を基にした、ソフトウェアGeneClass2(Piry et al. 2004)による個体単位でのアサインメントテストの識別正答率は89.1%となり、アサインメントテストはネギの品種識別に有効であると考えられる(表1)。
  • さらに、同じ品種に由来する任意の4個体のマルチローカス遺伝子型を基にグループ単位でのアサインメントテストを行うことにより、識別正答率が99.3%に向上する(表1)。グループ単位のアサインメントテストでは、遺伝的に近い品種間でも高精度の識別が可能である。

成果の活用面・留意点

  • F1品種を含めた既存品種の識別にアサインメントテストが利用できる。ただし、遺伝的組成が類似している品種間では識別精度が低下するので注意が必要である。
  • アサインメントテストにおいて、いくつの遺伝子座が必要か、また何個体をグループとするべきかは、識別に用いる作物や品種における遺伝子型や対立遺伝子頻度により異なるので、あらかじめ検討する必要がある。
  • 識別したい個体が属する品種の遺伝子型データが参照データに含まれていない場合、間違って別の品種として識別される場合がある。したがって、可能な限り、該当する可能性があると想定される品種の遺伝子型データを参照データに含んでおくことが重要である。

具体的データ

各品種の遺伝距離に基づく クラスター分析(NJ法)

各個体の遺伝子型データに基づくアサインメントテストの結果

その他

  • 研究課題名:病虫害抵抗性、省力・機械化適性、良食味等を有する野菜品種の育成
  • 中課題整理番号:211j.1
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2004~2007年度
  • 研究担当者:塚崎光、本城正憲、山下謙一郎、小原隆由、小島昭夫、大澤良(筑波大院生命環境)、若生忠幸
  • 発表論文等:Tsukazaki H. et al. (2010) Breed. Sci. 60(2):139-152