適応作型の広い短葉性ネギF1品種「ゆめわらべ」
要約
「ゆめわらべ」は、短葉性を有し辛味の少ないネギのF1品種である。春まき秋どり、秋まき初夏どりおよび冬まき夏どり栽培において「ふゆわらべ」より収量が多い。DNAマーカーにより他品種との識別が可能である。
- キーワード:ネギ、短葉性、食味、省力、品種標識
- 担当:業務需要畑野菜作・露地野菜品種開発、夏秋期野菜生産
- 代表連絡先:電話 050-3533-3863
- 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域、東北農業研究センター・畑作園芸研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
従来のネギより短い葉鞘で収穫することにより短期間で省力的に栽培できる短葉性ネギは、持ち運びの利便性などで消費者のニーズにも合致する新しいタイプのネギとして普及が期待されている。2009年に育成した短葉性品種「ふゆわらべ」は、夏まき冬どり栽培に適し、良食味を有するものの、他の作型では収量が少なく、収穫物の斉一性はF1品種にくらべて劣る。また、低辛味の特性は収穫期により変動が大きい。そこで、長期間安定した収量・品質を示す短葉性F1品種を育成する。他殖性であるネギは品種内DNA多型程度が高いが、品種標識法を用いてDNAマーカーによる品種識別が可能な品種とする。
成果の内容・特徴
- 「ゆめわらべ」は、短葉で軟らかく辛味の少ない細胞質雄性不稔性の「MSK-TA-2」を種子親、やや短葉で根深ネギとしての形状に優れる「TAM-1」を花粉親とするF1品種である(図1、図2)。
- 「ゆめわらべ」は、春まき秋どり、秋まき初夏どりおよび冬まき夏どりのいずれの作型においても葉身・葉鞘が一般的な根深ネギ品種「吉蔵」や「春扇」より短く、「ふゆわらべ」よりやや長い(表1、図2)。収穫物の揃いに優れ、分げつ発生率は「ふゆわらべ」より低い。
- 葉鞘肥大は「ふゆわらべ」より旺盛で、地上部生重が大きい(表1)。秋まき初夏どり栽培における抽だい株率は「ふゆわらべ」より低い。これらの結果、いずれの作型でも「ふゆわらべ」より収量が多い。
- 辛味程度の指標であるピルビン酸生成量は、いずれの作型でも「ふゆわらべ」より低い(表1)。
- 両親品種では、4つのSSR座について同一の遺伝子型をホモにもつ個体を選抜することにより品種標識しているため、「ゆめわらべ」ではほぼ全個体がこれらのマーカー座において同一の遺伝子型を示す(表2)。既存品種では、複数の遺伝子型が現れるため、「ゆめわらべ」を識別することが可能である。
成果の活用面・留意点
- 短葉鞘で収穫するネギとして、既存の短葉性品種「ふゆわらべ」では適応しない春まき秋どり等の作型で短期省力的な栽培が可能である。
- 厳寒期に葉先が黄化し、生育がやや停滞する。初夏どり栽培では冬季の生育促進および抽だい回避のためトンネル被覆が望ましい。
- 品種標識はTsukazaki et al. (2006) Breeding Science 56, 321-326に基づく方法であり、品種識別の際は複数の個体について標識SSR座の遺伝子型を調査する必要がある。また、標識マーカーは「ゆめわらべ」およびその両親品種の純度検定にも利用できる。
- 「ゆめわらべ」の許諾を受けて販売用種子を生産するには、両親品種「MSK-TA-2」および「TAM-1」に加え、細胞質雄性不稔維持品種「TA-2」についても許諾申請が必要となる。
具体的データ
(若生忠幸)
その他
- 中課題名:露地野菜の高品質・安定供給に向けた品種・系統の育成
- 中課題番号:113b0
- 予算区分:交付金、委託プロ(加工プロ、食品プロ、実用技術)
- 研究期間:1998~2011年度
- 研究担当者:若生忠幸、塚崎光、山下謙一郎、小原隆由、小島昭夫、山崎篤、山崎博子
- 発表論文等:若生ら「ゆめわらべ」品種登録出願2012年4月10日(第26929号)