「はくさい中間母本農6号」の晩抽性を選抜できるDNAマーカー
要約
花成の低温要求性が高い「はくさい中間母本農6号」由来の晩抽性は主に4つの量的形質遺伝子座(QTL)で支配される。これらのQTLに連鎖するDNAマーカーにより、同中間母本と同等の晩抽性を有する個体を交雑後代から効率的に選抜できる。
- キーワード:ハクサイ、晩抽性、SSRマーカー、QTL解析、花成関連遺伝子
- 担当:業務需要畑野菜作・露地野菜品種開発
- 代表連絡先:電話 050-3533-3863
- 研究所名:野菜茶業研究所・野菜委育種・ゲノム研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ハクサイは種子春化型植物であるため、生育初期に低温に遭遇しやすい作型では収穫前の抽だいによる品質低下が問題となる。これを回避するためには、低温に遭遇しても花芽が分化しにくい晩抽性品種が必要である。効率的な晩抽性育種を推進するため、花芽分化への低温要求性の高い「はくさい中間母本農6号」が持つ晩抽性に連鎖するDNAマーカーを開発する。
成果の内容・特徴
- 「はくさい中間母本農6号」(以下PL6)と、花成の低温要求性が一般的な「はくさい中間母本農7号」(以下A9709)に由来する交雑F2集団の晩抽性程度を、人工気象室での低温処理試験および冬まき春どりの慣行トンネル栽培試験により評価した場合、それぞれの試験で2カ所ずつ、計4ヶ所の晩抽性QTL(field-QTL1、field-QTL2、pot-QTL1、pot-QTL2)が検出される(図1)。これらのQTLに最も近接しているDNAマーカーはそれぞれKBrB092C03、KBrH068G07R、KBrH080A08、BrFLC5である(表1)。
- pot-QTL1のピーク近傍にはシロイヌナズナ花成促進因子FTに相同性を有するBrFTaが、field-QTL1およびfield-QTL2のピーク近傍にはシロイヌナズナ花成抑制因子FLCに相同性を有するBrFLC1とBrFLC5がそれぞれ座乗する(表1)。
- 低温環境下における花成促進因子BrFTaの発現は、A9709では低温処理35日前後から発現が誘導されるのに対し、PL6では49日後においてもほとんど発現量が上昇しない(図2)。
- F2分離集団の中で4ヵ所のQTLに連鎖するマーカー遺伝子型が固定した個体をトンネル栽培に供試すると、マーカー遺伝子型がA9709型の個体は花茎が40cm以上に伸長するのに対し、PL6型の個体群の平均花茎長はPL6や極晩抽性品種「ムーンビーチ」と同程度となる(表2)。そのためPL6に由来する交雑集団の中からPL6型のマーカー遺伝子型の個体を選抜することにより、晩抽性を付与することができる。
成果の活用面・留意点
具体的データ
(柿崎智博)
その他
- 中課題名:露地野菜の高品質・安定供給に向けた品種・系統の育成
- 中課題番号:113b0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2008~2011年度
- 研究担当者:柿崎智博、加藤丈幸、吹野伸子、小原隆由、石田正彦、畠山勝徳、松元哲
- 発表論文等:Kakizaki T. et al. (2011) Breed Sci. 61(2):151-159