植物ポジトロンイメージングによるナス果実への光合成産物転流の可視化

要約

植物ポジトロンイメージング装置を用いることにより、果菜類の果実へ転流する光合成産物を非破壊かつ即時的に画像化できる。取得した画像から放射活性情報について定量的解析を行い、転流速度や経時的な移行量等を推定できる。

  • キーワード:果実、光合成産物、転流、ナス、ポジトロンイメージング
  • 担当:日本型施設園芸・野菜ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話 050-3533-3863
  • 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ナスなどの果菜類の生産性向上のためには、光合成産物を効率的に果実へ集積させることが重要である。そのためには温度や光等の環境要因が光合成産物の動態に及ぼす影響を明らかにし、果実生産の効率を向上させる環境調節を含む栽培技術を開発する必要がある。しかし、刻々と変化する栽培環境に対応して変動する光合成産物の動態を、詳細に解析できる方法はこれまで知られていない。原子力開発機構が開発した植物ポジトロンイメージング装置(Positron Emitting Tracer Imaging System, PETIS)は、植物における光合成産物の移行過程を非破壊かつ即時的に画像化し、定量的に解析できる。そこで、これまでに園芸学分野での応用が無いPETISを用いて、ナスの果実へ転流する光合成産物の測定ができるか検討を行う。さらに、果実生産を向上させる栽培技術の開発につながる基礎的知見を得るための、定量的な解析方法の構築を行う。

成果の内容・特徴

  • ポジトロン放出核種11Cで標識したCO2を葉に処理し、果実部分をPETISで撮像することにより、葉に取り込まれた11Cが光合成産物として果実へ転流する過程を即時的に画像化できる(図1,2)。
  • 処理葉から果実内へ転流する光合成産物の分配は一様ではなく、移行経路に沿った局在性がある(図2b)。
  • PETIS画像から11C放射活性の経時的な変化(Time activity curve: TAC)を情報として取得でき、取得部位も関心領域として任意に設定できる(図3)。
  • 2点のTACについて回帰分析を行い、それにより構築した伝達関数モデルを用いることによって、光合成産物の転流速度を算出できる。その結果、図3aで果柄上に設定した「上部」と「下部」の関心領域間の転流速度はおよそ1.17cm/minと推定できる。
  • 果実を対象に設定した関心領域のTACから、果実直下の葉から取り込まれた光合成産物が果実に取り込まれ始める時間は60分前後と推定される。また、果実へ集積する光合成産物量の変化を明らかにできる(図3b)。

成果の活用面・留意点

  • PETISを用いて果実の解析を行った例は初めてであり、厚みのある器官でも光合成産物の局在を明らかにできる。ナス以外の果菜類にも汎用性があると推定される。
  • PETISは原子力開発機構と浜松ホトニクス(株)が共同で開発したものであり、両機関にのみ設置されている。
  • 11Cの半減期は20.39分であるが減衰補正を行って画像化しているため、適正な炭素動態を表している。放射活性が完全に減衰した後であれば、同一の個体を用いて再度測定が出来る。
  • ETISに使用可能な核種は、11C以外に13N、107Cd、22Naなどがある。

具体的データ

図1 PETIS測定の様子図2 果実における光合成産物移行過程の画像
図3 PETIS画像上から抽出した各関心領域における11C放射活性の経時的変化

(菊地郁)

その他

  • 中課題名:野菜におけるゲノム情報基盤の構築と利用技術の開発
  • 中課題番号:141g0
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2007~2011年度
  • 研究担当者:菊地郁、松尾哲、今西俊介、本多一郎、石井里美(原子力機構)、藤巻秀(原子力機構)、鈴井伸郎(原子力機構)、河地有木(原子力機構)
  • 発表論文等:1)Kikuchi K. et al. (2008) J. Japan. Soc. Hort. Sci. 77:199-205
    2)Kawachi N. et al. (2011) IEEE Trans. Nucl. Sci. 58:395-399