チャ新芽へのセシウムの移行とせん枝による放射性セシウムの除去

要約

2011年の一番茶の放射性セシウム汚染の主な要因は、古葉や枝条から吸収されたものが新芽へ転流したことである。放射性セシウムは、降下後数か月以上、茶樹の葉層や細枝に多く存在しており、中切りにより大部分の放射性セシウムを樹体から除去できる。

  • キーワード:茶、放射性セシウム、トレーサー試験、樹体内分布
  • 担当:総合的土壌管理・土壌養分管理
  • 代表連絡先:電話 0547-45-4101
  • 研究所名:野菜茶業研究所・茶業研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響により、多くの県で生産された茶から暫定規制値(500Bq/kg)を超える放射性セシウムが検出されたが、この汚染の原因が、葉面などの樹体の地上部からの吸収によるものか、根からの吸収によるものか、不明である。また、チャは永年生作物であることから、すでに樹体内に取り込まれている放射性セシウムが今後も新芽へ転流することにより、影響が長期化する可能性がある。そこで、セシウムの安定同位体(133Cs)を用いたトレーサー試験およびチャの樹体内における部位別の放射性セシウム含量の調査により、チャの新芽への放射性セシウムの移行経路およびせん枝による放射性セシウムの除去効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • セシウムを土壌あるいはチャの葉面に施用すると、施用から1ヶ月後の新芽へのセシウムの移行量は、葉面散布で多くなり、土壌からはほとんど移行しない(図1)。このことから、東京電力福島第一原発の事故により2011年度の一番茶で検出された放射性セシウム汚染の主な要因は、古葉や枝条から吸収されたものが新芽へ転流したことである。
  • 2011年3~5月の放射性セシウムの積算降下量が約1,400Bq/m2であった地域の茶園において、一番茶摘採後には、深刈り面より上に37%、中切り面より上に74%の放射性セシウムが存在する(図2、表1)。これらのせん枝処理を行うことにより、それぞれのせん枝面よりも上に存在する放射性セシウムを樹体から取り除くことができることから、せん枝処理は、その後の新芽への放射性セシウム移行量を低減するための緊急対策手法として推奨される。

普及のための参考情報

  • 普及対象
    茶生産者、行政機関
  • 普及予定地域・普及予定面積
    2011年度の一番茶および二番茶において、放射性セシウム濃度の暫定規制値を超過した生産県。
  • その他
    本成果の一部は、2011年6月29日に農林水産省から発出された技術指導通知において、2011年度二番茶摘採後の営農対策のための基礎データとして利用された。せん枝によって刈り取った枝葉の処理については、農林水産省等の方針に従って行う。

具体的データ

図1 施用したセシウム(133Cs)の二番茶新芽への移行量
図2 放射性セシウムの部位別分布調査の概略図
表1 一番茶・二番茶時期の茶樹の各部位に含まれる放射性セシウム量

(廣野祐平、野中邦彦)

その他

  • 中課題名:土壌・資材の評価と肥効改善による効率的養分管理技術の開発
  • 中課題番号:151a1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:廣野祐平、野中邦彦
  • 発表論文等:野中・廣野(2011)茶業研究報告、112:55-59