茶園への石灰窒素の施用による一酸化二窒素発生量抑制効果

要約

茶園において年間窒素施用量の24~40%を石灰窒素で代替して、春肥および秋肥の時期に施用することにより、茶園のうね間土壌からの一酸化二窒素の発生量を平均で約50%削減できる。また、慣行施肥区と同等の茶の収量および品質を確保できる。

  • キーワード:茶、一酸化二窒素(N2O)、石灰窒素、J-クレジット、硝化抑制剤
  • 担当:総合的土壌管理・土壌養分管理
  • 代表連絡先:電話 050-3533-3861
  • 研究所名:野菜茶業研究所・茶業研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

一酸化二窒素(亜酸化窒素、N2O)は農地から発生する主要な温室効果ガスの一つであり、オゾン層破壊物質でもある。茶園におけるN2Oの排出係数(施肥窒素量に対するN2O-N発生量の割合)は2.9%と、他の作物が栽培されている畑地の0.62%に比較して高いため(日本国温室効果ガスインベントリ報告書)、排出量の削減が求められている。土壌から生成するN2Oは主に硝化過程と脱窒過程から生じることから、硝化を抑制することでN2Oの生成を抑制できると考えられる。そこで、硝化抑制効果を持つ石灰窒素およびジシアンジアミド(DCD)の施用が、茶園からのN2O発生量と茶の収量・品質に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 春肥および秋肥として施用する窒素量のそれぞれ36%、47%を石灰窒素で代替することで(図1)、茶園のうね間土壌からのN2O発生量を51%削減できる(表1)。他の試験結果も合わせて評価すると、石灰窒素で春肥および秋肥の一部(年間窒素施用量の24~40%相当)を代替して施用することにより、N2O発生量を39~64%(平均51%)削減できる(表2)。
  • 石灰窒素区、DCD区の一番茶および二番茶の収量・全窒素含量は慣行区と同等である。また、製茶品質も慣行区と同等である(表1)。
  • DCDの施用による茶園のうね間土壌からのN2O発生量に及ぼす影響は年によって傾向が異なり(図省略)、明確な削減効果は確認できない(表1)。
  • 石灰窒素の施用により土壌pHが上昇するため、苦土石灰の施用量を減らしても(図1)、土壌pHが茶園土壌の改良目標値の範囲に収まる(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:行政
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:土壌pHが4を下回り、苦土石灰による土壌改良が必要とされる茶園。
  • 各種肥料の価格を、硫安:1,200円/20kg、尿素:1,900円/20kg、石灰窒素:2,800円/20kg、苦土石灰:700円/20kgとして試算すると、石灰窒素区の1haあたりの年間肥料代は慣行区よりも37,700円増加する。この金額は、静岡県の年間肥料費705,650円/ha(H25茶関係資料)の約5%に相当する。
  • その他:本成果の一部を根拠として、「茶園土壌への硝化抑制剤入り化学肥料又は石灰窒素を含む複合肥料の施肥(AG-003 Ver.2.0)」が排出権取引の枠組みの中で運用されているJ-クレジット制度の方法論に採用されている。この方法論を用いて、カーボンオフセット・クレジットの価格を1,500円/t-CO2とし、運搬にかかる化石燃料の使用量が肥料種の変更によって変化しないとして試算すると、クレジットの販売代金は約4,200円/ha(年間窒素施用量540 kg-N/haの場合)となる。

具体的データ

図1~2,表1~2

その他

  • 中課題名:土壌・資材の評価と肥効改善による効率的養分管理技術の開発
  • 中課題整理番号:151a1
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)、交付金
  • 研究期間:1999?2013年度
  • 研究担当者:廣野祐平、野中邦彦、徳田進一、山口優一
  • 発表論文等:
    徳田進一(2005)茶業研究報告、100:45-48
    Hirono and Nonaka (2014) Soil Sci. Plant Nutr. (印刷中)