トマトの高品質多収育種のためのゲノム情報に基づく高精度形質予測

要約

ゲノム全体に配置したDNAマーカー情報に基づく形質予測モデルおよび交雑後代のゲノム構成コンピューターシミュレーションによって、トマトの果実糖度と果実収量を同時に向上させる育種過程を高精度に予測できる。

  • キーワード:トマト、ゲノム、DNAマーカー、果実糖度、果実収量
  • 担当:日本型施設園芸・野菜ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話050-3533-4615
  • 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

わが国で最も農業生産額の大きい重要野菜であるトマト(Solanum lycopersicum L.)において、高品質(高糖度)と多収はともに重要な育種目標である。しかし、両形質はいずれも多数の遺伝子が関与する量的形質であること、さらには互いに負の相関関係が見られることから、これらを同時に向上させる育種選抜は容易ではない。そこで、統計遺伝学的手法に基づいてDNAマーカー情報から形質値を予測する計算式(形質予測モデル)を作成するとともに、交雑育種過程における各世代のゲノム構成の推移についてのコンピューターシミュレーションを利用することで、トマトの高糖度・多収化のための新たな育種手法の確立をめざす。

成果の内容・特徴

  • 1950年代から2000年代までにわが国で育成された大玉トマトF1品種96点の養液栽培による形質データとゲノム全体に配置された16,782個のDNAマーカー情報から形質予測モデルを作成した。これを用いることで、果実糖度や果実収量を高精度に予測できる(表1)。
  • 交雑育種過程における各個体のゲノム構成の推移は、減数分裂時の染色体の組換えを考慮してコンピューターシミュレーションを行うことができる。任意の交雑組み合わせから得られる後代集団のゲノム構成についてコンピューターシミュレーションを行い、これを形質予測モデルに当てはめることにより、果実糖度と果実収量が同時に向上した後代を得られると予想される最適な交雑親を選択することができる(図1)。
  • 形質予測モデルに基づいたコンピューターシミュレーションの結果は、最適交雑親として選ばれた4品種の相互交雑と、それに引続くDNAマーカー情報のみを指標とした個体選抜と相互交雑の繰り返しによって、果実糖度と果実収量がともに向上した系統を効率的に育成しうることを示す(図1)。
  • 一連の統計遺伝学的解析はパッケージ化された一式のプログラムを用いて実施可能である(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:種苗会社、公立試験研究機関、大学等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:品種開発に従事する種苗会社、公立試験研究機関、およびゲノム育種研究に従事する大学等に広く普及する。
  • その他:開発された手法を用いて、甘くて収量も多いトマト品種を、効率的かつ短期間に育成することが可能となる。現在、この形質予測モデルに基づいた育種プロセスの実証実験を進めている。開発されたプログラムとマニュアルは野菜DNAマーカーデータベース「VegMarks」から入手可能であり、任意の形質データとDNAマーカー情報を用いた形質予測モデルの構築や最適交雑親の選択、マーカー選抜育種に利用できる。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:野菜におけるゲノム情報基盤の構築と利用技術の開発
  • 中課題整理番号:141g0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム、新ゲノム)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:山本英司、松永啓、小野木章雄(東大)、鐘ケ江弘美(東大)、南川舞(東大)、鈴木晶統(東大)、白澤健太(かずさDNA研)、平川英樹(かずさDNA研)、布目司、山口博隆、宮武宏治、大山暁男、岩田洋佳(東大)、福岡浩之
  • 発表論文等:Yamamoto E. et al. (2016) Sci. Rep. 6:19454. doi:10.1038/srep19454