ネギの発現遺伝子配列を活用したDNAマーカー
要約
次世代型DNAシーケンサーを用いて取得したネギの5.5万の独立遺伝子配列には、2,000以上のSSRが含まれるとともに、系統間の配列比較からDNA多型を検出することにより効率的にDNAマーカーを作成できる。
- キーワード:ネギ、発現遺伝子、DNAマーカー
- 担当:業務需要畑野菜作・露地野菜品種開発
- 代表連絡先:電話050-3533-4605
- 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ネギおよびタマネギはわが国で重要な野菜である。しかし、ゲノム情報の蓄積が乏しく、育種における効率的選抜技術の開発が遅れている。これまで、ネギゲノムDNAより単離した多数のSSRマーカーを用いて連鎖地図を作成してきた(Tsukazakiら2008,2008年普及成果情報)が飽和連鎖地図には至っていない。また、ゲノムDNA由来のSSRマーカーにはネギと同属のタマネギで利用できるものが少なく、両種のゲノム比較等のためには、発現遺伝子領域をターゲットとしたネギ類共通マーカーの開発が必要である。そこで、次世代型DNAシーケンサーを活用して複数のネギ系統から発現遺伝子配列を取得し、それらの系統間多型を利用して汎用性のあるDNAマーカーを開発する。
成果の内容・特徴
- ロシュ社454 GS FLXシーケンサーを用いて得たネギ遺伝資源「北葱」自殖系統の135万のRNA断片配列、ならびにイルミナ社HiSeq 2000シーケンサーを用いて得たネギ3系統のRNA断片配列を統合・解析すると、54,903個の独立な遺伝子配列(ユニジーン)が推定される(表1)。これらの配列の解読結果の指標であるN50(得られた個々の配列の塩基数を大きい順に加算し、総塩基数の50%に達した際の塩基数)は1,109bpである。
- これらの配列の10,668個は、公開またはかずさDNA研究所が独自に取得したタマネギ発現遺伝子配列(14,838個)と仮想的にオルソロガスな関係(同祖関係)であると推定される(データ省略)。
- このユニジーンセットには2,396のSSR(単純反復配列)が含まれており、そのコア配列の組成はネギゲノムDNAより単離したSSR(gSSR)の組成と大きく異なる(表2)。また、任意に設計した395マーカーのネギ8系統における平均アリル数は2.37である(表3)。
- ネギ「下仁田」自殖系統(F)および「赤ひげ」自殖系統(A)から取得した配列の比較により検出されるSNP(一塩基多型)やInDel(挿入欠失)領域を増幅させる特異的プライマーを設計することで、F-A分離集団において効率的に多型マーカーが得られる(図1、表3)。
成果の活用面・留意点
具体的データ
その他
- 中課題名:露地野菜の高品質・安定供給に向けた品種・系統の育成
- 中課題整理番号:113b0
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(二国間)
- 研究期間:2011~2015年度
- 研究担当者:塚崎光、谷口成紀(JSPS特別研究員)、佐藤修正(かずさDNA研)、平川英樹(かずさDNA研)、片寄裕一(生物研)、金森裕之(生物研)、伊藤剛(生物研)、福岡浩之、山下謙一郎、執行正義(山口大農)、若生忠幸
- 発表論文等:
Tsukazaki H. et al. (2015) Mol. Breed. 35:55