ナス半枯病抵抗性遺伝子座の同定と育種選抜マーカーの開発

要約

ナス系統LS1934が有する半枯病抵抗性は第2染色体末端の遺伝子座FM1によって支配されている。同遺伝子座は2つのSSRマーカーによって選抜可能である。

  • キーワード:ナス、半枯病抵抗性、土壌伝染性病害、育種選抜マーカー
  • 担当:日本型施設園芸・野菜ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話050-3533-4615
  • 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ナスの生産現場において、半枯病は重要な土壌伝染性病害の一つであるが、実用的な抵抗性品種が存在しないことから、抵抗性台木を利用した接ぎ木栽培によりその被害を回避している。こうした現状において、生産コスト低減の観点から、農業形質に優れる抵抗性穂木品種の育成が強く求められている。しかし、抵抗性系統の選抜には時間と労力を要するため、積極的な抵抗性育種が行われていないのが実状である。そこで、本課題では半枯病抵抗性遺伝子座の座乗位置を同定し、同遺伝子を有する個体を高精度かつ簡便に選抜できるDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • ナス系統LS1934が有する半枯病抵抗性は第2染色体末端に座乗する主働遺伝子によって支配されている。これはナスに由来する半枯病抵抗性遺伝子座についての初めての報告であり、本遺伝子座をFM1と命名する(図1)。
  • 抵抗性ナスと罹病性ナスの交配F2集団、LWF2(LS1934 x WCGR112-8(罹病性))において、FM1座の遺伝子型が抵抗性親型の個体は有意に半枯病に抵抗性を示す(表1)。
  • LS1934を抵抗性親とする戻し交雑組換え近交系集団、ALBIL[(LS1934 x AE-P03(罹病性))x LS1934由来]を用いた遺伝解析の結果から、FM1座は互いに1.1cMの距離にある2つのSSRマーカー、emg01L21とemi06E01の間に座乗し、同マーカーによって選抜が可能である(表2)。
  • 本課題で得られた育種選抜マーカーは抵抗性素材LS1934特有の遺伝子型を示し、様々なナスとの交配組み合わせで利用可能な高い汎用性を有する(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 本抵抗性遺伝子はヘテロ接合であっても通常の栽培環境では十分な抵抗性を発揮するが、環境条件によっては萎凋症状を示すことがあることから、抵抗性品種は同遺伝子をホモ接合で有することが望ましい。
  • FM1座近傍の座乗マーカー情報については発表論文の他、野菜DNAデータベースVegMarks(http://vegmarks.nivot.affrc.go.jp/VegMarks/jsp/index.jsp)から入手可能である。
  • 半枯病抵抗性を有するナス素材として「なす中間母本農1号」とLS2436が他に報告されている。発表論文(Miyatake K et. al. 2016)において、前者が有する抵抗性遺伝子座はFM1座と同じか、そのごく近傍に座乗することが示唆されており、前者を母本とする育種選抜には同座の周辺マーカー情報が利用可能である。一方、後者のそれは別の染色体(第4染色体)に座乗することが示唆されていることから、後者を母本とする場合には論文情報を利用して別途マーカーを開発する必要がある。

具体的データ

その他

  • 中課題名:野菜におけるゲノム情報基盤の構築と利用技術の開発
  • 中課題整理番号:141g0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2008~2015年度
  • 研究担当者:宮武宏治、齊藤猛雄、山本英司、山口博隆、布目司、大山暁男、福岡浩之
  • 発表論文等:Miyatake K. et al. (2016) Theor. Appl. Genet. 129:357-367