トマト葉かび病菌の国内レースにおける遺伝的背景の解析

要約

日本で発生しているトマト葉かび病菌のレースは、国内で独自の寄生性分化を遂げ、日本特有のレースが生じており、またそれぞれの地域で独立して別々の親系統から新レースが発生する。

  • キーワード:トマト葉かび病、レース分化、Passalora fulvaAvr遺伝子、一塩基多型(SNPs)
  • 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
  • 代表連絡先:電話029-838-8930
  • 研究所名:野菜茶業研究所・野菜病害虫・品質研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

トマト葉かび病菌(Passalora fulva)はトマトのみに感染する病原菌であり、葉に生じる黄化症状によって生育不良を引き起こす。抵抗性品種に依存した防除体系や減農薬栽培、微生物農薬の普及によって、これまでは潜在的に抑制されていた本病害が顕在化した。全国的な調査の結果、本病原菌の新たな寄生性系統(レース)が多数検出され、日本のトマト葉かび病菌は多様なレースに分化していることが明らかとなっている。また、海外では報告がないレースが多数見いだされたことから、日本国内でレース分化した可能性が高い。そこで、日本国内および海外で分離されたトマト葉かび病菌の遺伝的関係を解析し、レース分化の背景を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 日本分離株133菌株について、レースを決定するAvr遺伝子群(Avr2Avr4Avr4EAvr5Avr9)の塩基配列(表1)および交配型遺伝子のタイプ(MAT1-1またはMAT1-2)に基づいて遺伝型を決定し、海外分離株と比較した。
  • 国内分離株のAvr2Avr4Avr5に、海外分離株にないユニークな変異部位を多数見いだされ、日本分離株は海外分離株とは全く異なる遺伝型を示すことから、日本国内における多様なレースは海外から持ち込まれたものではなく、国内で独自の寄生性分化を遂げ、日本特有のレースが生じたものと考えられる。
  • 新レースが分離された近隣地域には、親系統となる遺伝型を持つ菌株も分離されている(図1)。
  • 同時期に分離され同じレースに属す菌株でも異なる遺伝型を示すことから(図1)、日本の多様なレースはそれぞれの地域で独立して発生したことが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 新レースはそれぞれの近隣地域で異なる親系統から独立して発生しているため、近隣地域からの病原菌の流入に注意する。
  • 新レースはCf-4Cf-5Cf-9の抵抗性遺伝子が市販品種に導入された後に、急激に発生していることから、抵抗性品種に過度の依存した画一的な栽培による選択圧が、新レースの局地的な増殖を招き、拡散すると考えられる。

具体的データ

その他

  • 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
  • 中課題整理番号:152a0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:飯田祐一郎、窪田昌春、Pierre J.G.M. de Wit(Wageningen大学)
  • 発表論文等:Iida Y. et al. (2015) PLOS ONE 10(4): e0123271