チャトゲコナジラミの有力天敵シルベストリコバチには2つの遺伝的系統がある

要約

シルベストリコバチは、チャの侵入害虫チャトゲコナジラミの防除に活用が期待される天敵寄生蜂である。日本に分布するシルベストリコバチには由来が異なる2つの遺伝的系統が存在し、野外のチャトゲコナジラミには両系統が寄生する。

  • キーワード:寄生蜂、侵入害虫、生物的防除、天敵、分子系統解析
  • 担当:環境保全型防除・天敵利用型害虫制御
  • 代表連絡先:029-838-6453
  • 研究所名:野菜茶業研究所・茶業研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

シルベストリコバチEncarsia smithi(図1)は、トゲコナジラミ類の有力な天敵寄生蜂として知られる。1900年代初頭に我が国に侵入したカンキツ害虫ミカントゲコナジラミAleurocanthus spiniferusは、1925年に中国から導入されたシルベストリコバチにより、極低密度に制御されている。また、近年我が国の茶園で被害を拡大させている侵入新害虫チャトゲコナジラミAleurocanthus camelliae(図1)に対しても、本種の寄生による密度抑制効果が報告されている。そこで、本種の利用によるチャトゲコナジラミの効率的管理技術開発の基礎とするため、シルベストリコバチの分子系統関係を解析する。

成果の内容・特徴

  • 日本に分布するシルベストリコバチの個体群構造を明らかにするため、全国各地のミカントゲコナジラミ及びチャトゲコナジラミ個体群を採集し、これに寄生しているシルベストリコバチのミトコンドリアCOI遺伝子を調査したところ、遺伝子型が異なる2系統に分類される(図2)。
  • 本州、四国、九州、南西諸島に分布するミカントゲコナジラミ15個体群107個体に寄生するシルベストリコバチの遺伝子型は全て同一である(図3)。これを遺伝子型I型とすると、I型コバチは1925年に導入されたコバチの子孫であると推察される。
  • 2004年に近畿へ侵入後、我が国の主要茶産地全域に分布を拡大しつつあるチャトゲコナジラミ9個体群72個体に寄生するシルベストリコバチの遺伝子型は、大部分がI型とは異なる同一の遺伝子型である(図3)。これを遺伝子型II型とすると、II型コバチは、チャトゲコナジラミに随伴する等して近年移入し、チャトゲコナジラミの生息域拡大に伴って分布を拡大していると推察される。
  • かつてミカントゲコナジラミ防除のために、シルベストリコバチの放飼を行った静岡や福岡などの一部地域では、I型コバチがチャトゲコナジラミに寄生する事例が確認される(図3)。すなわち、チャトゲコナジラミには両系統のコバチが寄生する。

成果の活用面・留意点

  • シルベストリコバチ2系統間には遺伝的に不連続な違いがあるため、両系統を判別する遺伝子マーカーの開発が可能である。
  • 本調査は2005~2012年に採集した個体群について調べたものである。2系統の分布や構成比率は、その後変化している可能性もある。

具体的データ

その他

  • 中課題名:土着天敵等を利用した難防除害虫の安定制御技術の構築
  • 中課題整理番号:152b0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(実用技術)
  • 研究期間:2009~2015年度
  • 研究担当者:上杉龍士、佐藤安志、屋良佳緒利
  • 発表論文等:Uesugi R. et al. (2016) Bull. Entomol. Res. doi:10.1017/S0007485315001030