水田土壌中の窒素の挙動と水稲の窒素吸収を表わすメカニスティックモデル

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要約

拡散、溶脱、吸着、無機化、有機化、脱窒、根による吸収など、水田土壌中における窒素の挙動を表わし、水稲の生育経過について推定を行うメカニスティックモデルを開発した。

  • 担当:富山県農業技術センター・農業試験場・土壌肥料課
  • 連絡先:0764-29-2111
  • 部会名:生産環境
  • 専門:土壌
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

低コストで高位の生産を実現するためには、水田の土壌環境を正確に把握して、適切な栽培管理情報を適期に提供できるシステムを開発する必要がある。 そこで、土壌中で生じる各種の現象を物理化学的な反応機構として整理して、水田中における窒素の挙動を表わすモデルを開発した。さらに、施肥管理場面における利用を想定し、水田土壌に施用した窒素の挙動等に関する実験結果に基づいて、モデルの有用性を検証した。

成果の内容・特徴

水田における窒素の挙動を、土壌中で生じる物理化学的な反応機構に基づいて表わすモデルを開発した。モデルは施肥管理、気象条件と水稲の生育を要因として含む。本モデルを使って各種の条件下におけるシミュレーションを実施することにより、施肥窒素の挙動等を推定することができる。

  • モデルは、作土及び下層土を数層に細分して、土壌溶液の拡散、溶脱、吸着、無機化、有機化、脱窒、水稲根の窒素吸収などから窒素の挙動を説明するものである(図1)。水稲の乾物生産と発育段階、窒素保有量等の推定値も、本モデルで得ることができる。
  • プログラムを走らせると、計算条件を示してシミュレーションを開始し、土壌窒素の層位別分布現況、土壌中の無機能窒素量や脱窒・溶脱等の経過、植物の窒素保有量や生長状況を図示すると共に、数値でもシミュレーション状況を示す(図2)。
  • あらかじめパラメータファイルを書き直すか、シミュレーションの開始時のキー操作、あるいはシミュレーションの途中でのキー操作のいずれによっても、シミュレーションの条件を変更することができる。
  • 本モデルによるシミュレーションの結果は、カラム試験における添加窒素の挙動(図3)、圃場における水稲の生育経過、水稲栽培枠試験の施肥窒素のゆくえなど(図4)と、よく一致した。

成果の活用面・留意点

  • 本モデルの検証は、コシヒカリを栽培する中粗粒灰色低地土水田で実施したもので、条件が大きく異なる場合については、改めて検証する必要がある。
  • 本モデルは、基肥窒素の挙動の推定結果には誤差を生じる。

具体的データ

図1 水田土壌中の窒素の挙動を表すモデルの概念図

図2 シミュレーション実行画面

図3 アンモニア態、有機態および損失窒素量の実測値とモデルによる推定の比較

図4 水稲の窒素吸収経過の実測値とモデルによる推定値の比較

その他

  • 研究課題名:中粗粒・礫質灰色低地土水田土壌管理情報システムの開発
  • 予算区分 :指定試験
  • 研究期間 :平成6年度(平成元~5年)
  • 発表論文等:水田土壌中における窒素の挙動を表わすモデルの開発と検証、
                      土肥要旨集、39、100、1993.
                      作物の養分要求に対する土壌の供給能、土壌の物理性、69、67-73、1994.
                      平成3年度農林水産省指定土壌肥料試験成績書、
                      82-121、富山県農業技術センター
                      平成4年度農林水産省指定土壌肥料試験成績書、
                      65-71、富山県農業技術センター