ハスモンヨトウの卵塊に付着する鱗毛が卵寄生蜂メアカタマゴバチの産卵行動に与える影響

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要約

卵寄生蜂メアカタマゴバチは、鱗毛を除去したハスモンヨトウの卵塊に産卵するが、鱗毛が付着したままの卵塊には産卵しない。それゆえ産付した卵もしくは卵塊を鱗毛で覆い隠す鱗翅目害虫の生物的防除にメアカタマゴバチを利用しても、的確な効果は期待できない。

  • 担当:中国農業試験場・生産環境部・虫害研究室
  • 連絡先:0849-23-4100
  • 部会名:生産環境(病害虫)
  • 専門:作物虫害
  • 対象:昆虫類
  • 分類:研究

背景・ねらい

多くの害虫の卵もしくは卵塊は、鞘、鱗毛、剛毛、排泄物、絹糸、泡などで覆われている。これらの物質は天敵の攻撃に対して防御的効果を持っている可能性がある。したがって、害虫の生物的防除に卵寄生蜂を利用する際には、卵もしくは卵塊を覆う物質が、卵寄生蜂の産卵行動に与える影響を知る必要がある。そこで、鱗翅目害虫の密度制御因子とされるタマゴバチ科の産卵行動が、鱗毛によりどの程度抑制されるかをメアカタマゴバチを材料に実体顕微鏡下で観察し、天敵利用のための基礎資料とする。

成果の内容・特徴

  • メアカタマゴバチは鱗毛を除いてばらばらにしたハスモンヨトウの卵粒に対して、通常観察される一連の産卵行動を示し、産卵率も高い(表1)。
  • メアカタマゴバチは鱗毛を除去したハスモンヨトウの卵塊に産卵するが、鱗毛が付着したままの卵塊(図1)にはまったく産卵しない(表2)。
  • 以上の結果から、メアカタマゴバチはハスモンヨトウの卵を寄主として認識するものの、その産卵は卵塊を覆う鱗毛により阻害されると結論され、ハスモンヨトウの生物的防除にメアカタマゴバチを利用しても十分な効果は期待できない。

成果の活用面・留意点

  • 卵寄生蜂を利用した生物的防除に際し、害虫の卵もしくは卵塊を覆う物質の影響を把握する必要性が確認された。鱗毛が卵寄生蜂の産卵に影響を及ぼさないとする従来の知見は再検討すべきと考える。

具体的データ

表1 ハスモンヨトウ卵粒に対するメアカタマゴバチの産卵率

図1 鱗毛が付着したハスモンヨトウの卵塊

表2 鱗毛の有無とメアカタマゴバチの産卵率

その他

  • 研究課題名:主要鱗翅目野菜害虫の卵寄生蜂の種類相と寄生率調査
                      (2)ハスモンヨトウ卵塊上の鱗毛が卵寄生蜂Trichogramma chilonis の産卵行動に及ぼす影響
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成6年度(平成5~7年度)
  • 研究担当者:太田泉、三浦一芸、小林正弘
  • 発表論文等:Effect of Scale-Hair of the Common Cutworm Egg Mass on the Oviposition Behavior of Trichogramma chilonis
                      Ishii(Hymenoptera:Trichogrammatidae)、Appl.Entomol.Zool.29:608-609、1994.