ナタネ花粉由来胚発生における窒素同化経路の変化

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要約

ナタネ未熟花粉からの胚発生誘導時にはグルタミンが必須であり、硝酸還元酵素及びグルタミン合成酵素活性は極めて低い。胚発生開始後にグルタミン合成酵素の活性が、また心臓型胚に発達すると硝酸還元酵素の活性が見られる。

  • 担当:中国農業試験場・作物開発部・育種工学研究室
  • 連絡先:0849-23-4100
  • 部会名:生物工学
  • 専門:生理
  • 対象:なたね
  • 分類:研究

背景・ねらい

ナタネの単離花粉培養系は、直接胚発生することから初期胚発生の研究を行う上で有効な培養系である。特に、種子胚と異なり組織から離れている点で、その生理的な変化等を研究することが容易である。一方、近年様々な植物で体細胞胚の誘導が報告されているが、まだ難しい植物も多く存在する。このため、胚発生の誘導に必要な生理的な条件、培地条件を明らかにする必要がある。そこでナタネ単離花粉培養系を用いて、まず胚発生時の窒素代謝経路の変化を明らかにしようとした。

 

成果の内容・特徴

  • ナタネ未熟花粉からの胚発生誘導には、培地中にグルタミンが比較的高い濃度で存在することが必須である(表1、図1)。
  • グルタミンが存在する培地では、培養開始4日目前後に1回目の細胞分裂が観察され、引き続き胚発生が進行する。また4日目以降、グルタミンの代わりにアンモニウム塩とグルタミン酸が存在する培地に移植しても胚発生は継続する(表1)。このことから、アンモニウム塩とグルタミン酸を基質とするグルタミン合成酵素の活性が高くなっていると推定される。
  • 培養開始15日目には多くの胚が心臓型胚から魚雷型胚のステージに発育し、高い硝酸還元酵素活性(in vivo )を示す。一方4、8日目の胚では活性が見られない(図2)。
  • ナタネ種子胚の発生初期には、胚嚢液(Embryosac fluid)中に高濃度のグルタミンが存在する。
  • 胚発生の誘導は、グルタミンの他アラニンでも可能である。

成果の活用面・留意点

本成果は、ナタネの単離花粉培養系での知見であるが、同じアブラナ属に属する種でも基本的に同じであると推定される。このため、アブラナ属作物の単離花粉培養の開発の際に特に有効な情報と思われる。また、手法も含めて、本成果は胚発生の生理学的な研究にも参考となる。

具体的データ

表1 グルタミンを含む培地およびアンモニウム塩とグルタミン酸を含む培地での培養時期による胚発生率の違い

図1 胚発生誘導時のグルタミン濃度の影響

図2 胚発生時の硝酸還元酵素活性の変化

その他

  • 研究課題名:幼苗の短期保存技術
  • 予算区分 :バイテク(地域バイテク)
  • 研究期間 :平成6年度(平成3~7年)
  • 研究担当者:大川安信、小川泰一、福岡浩之
  • 発表論文等:Requirement of Glutamine for Embryogenesis in Brassica napus L.,投稿中