平成6・7年に四国地域で発生した花き類の新病害

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要約

平成6・7年度、四国地域で発生した花き新病害、ファレノプシス乾腐病、カルセオラリア灰色かび病、ヒアシンス青かび病、ゴデチア立枯病、およびアネモネ炭そ病の病徴と病原糸状菌の特徴を明らかにしたことにより、それらを的確に診断できる。

  • 担当:四国農業試験場・生産環境部・病害研究室
  • 連絡先:0877-62-0800
  • 部会名:生産環境(病害虫)
  • 専門:作物病害
  • 対象:花き類
  • 分類:指導

背景・ねらい

近年、四国地域では花き類の生産増加に加え、種類の多様化や栽培法の変化に伴い、それらの初発生菌類病が急増しているため、病原の究明や診断技術の確立および防除対策が求められている。そこで防除のための基礎的知見を得るため、それらの病原菌を解明するとともに、診断法を確立する。

成果の内容・特徴

  • 1新病害、国内初発生の3病害、および病原の訂正を要する1病害を四国地域で新たに確認し、病徴と病原糸状菌の特徴を明らかにしたことにより、それらを的確に診断できる。
  • 新病害:①ファレノプシス(コチョウラン)乾腐病は香川県綾歌郡の切り花生産農家で発生し、下位葉鞘に初め灰緑色、後に暗色に乾燥する病斑が広がり、葉鞘の半分以上が侵されると葉身が早期黄化・落葉するほか、罹病部が生長点に達すると株全体の枯死に至るのが特徴。また、多湿条件下で形成される枯死病斑上の白~肌色粉塊状の分生子および橙色小粒状の子のう殻も診断のポイント。
  • 国内初発生病害:②カルセオラリア灰色かび病は香川県満濃町で発生し、主に培土に接した下葉より、初め水浸状暗緑色の病斑が広がり、病斑は中央部から徐々に褐色から淡褐色に乾枯するか、多湿の場合は暗褐色に軟腐し、表面に淡褐色ないし灰褐色のかびが密生するのが特徴。冬期、加湿施設で被害が著しい。
    ③ヒアシンス青かび病は香川県善通寺市で発生し、花穂が褐色に枯れ、枯死部に青緑色粒状のかびが生じ、発病株の球根表皮や鱗茎上部にも同様のかびが大量に観察されるのが特徴。低温・多湿条件下での水栽培で赤・紫系品種に発生する。
    ④ゴデチア立枯病は香川県高瀬町のポット植えの苗に発生し、地際部と根部が黒褐色水浸状に腐敗し、地上部が急激に萎凋・枯死するのが特徴。(病原同定は農環研との共同研究)
  • 再同定病害:⑤アネモネ炭そ病は愛媛県重信町および松山市の施設で発生し、苗腐敗、生育不良、葉のカール、花柄の捻れ等が起き、腐敗苗や地際部に橙褐色の分生子塊が形成されるのが特徴。定植直後と着花期に多発する。病原菌Colletotrichumacutatumはベノミル1,250ppm添加PDA培地上でも比較的生育良好な点で、誤同定されていたColletotrichumgloeosporioidesと容易に識別できる。なお、後者のベノミル耐性菌株を見分けるため、同時にジエトフェンカルブ625ppm添加PDA培地でも培養する必要がある。

成果の活用面・留意点

  • 花き類の病害防除に関する国内情報が乏しい現在、新病害等の発生状況と病原菌を明らかにし、その診断法を確立したことにより、同じ病原菌による他作物の病害の知見や海外での同一病害の情報を利用して、的確な指導を行うことが可能となる。
  • これらの成果は各病害の発生生態の解明および防除技術開発の基礎資料となる。

具体的データ

各病原菌の形態および生育温度

①ファレノプシス乾腐病菌:Nectria ochroleuca (Schwein.) Berk.(子のう菌類)

子のう殻は淡橙色、亜球~広卵形、孔口部は乳頭状に突出し 表面平滑、230-320×200-270μm。子のうは棍棒形、8胞子性、側糸を欠き、48-60×4-6μm。子のう胞子は無色、楕円形、中央1隔壁をもち、9-12×3-3.6μm。分生子柄はGliocladium型、粗面、無色で数隔壁を有し、長さ100μm以下。分生子は、無色、単細胞、楕円形で表面平滑、4.0-8.4×2.2-3.0μm。分離菌は5~35°Cで生育し、最適生育温度は27°C付近で、コロニー裏面は黄~橙褐色。 

②カルセオラリア灰色かび病菌:Botrytis cinerea Pers.(不完全菌類)

分生子柄は宿主の表皮上に単生し、長さ350-1,500μm、幅13-17.5μm、基部は淡褐色で、先端部はほぼ無色、2~4分枝をもち、主軸と分枝 先端はやや膨れ、その表面から房状に全出芽により分生子が密生する。分生子は楕円形ないし倒卵形で、無色か淡褐色、基部に小さな突起をもつ場合があり、光 顕下ではほぼ表面平滑、大きさは8-14×6-10μm、1/b比は1.5。25°C、PDA上に形成された菌核は偏平黒色円形ないし楕円形または不整形 で、平均長径は5.2mm。

分離菌は5~30°Cで生育し、20~25°Cで最も生育良好で、コロニーは汚灰褐色。

③ヒアシンス青かび病菌:Penicillium spp.(不完全菌類)

PDA培地上の生育が緩慢で粉状分生子を多量に形成しベルベット状。コロニーが青緑色と灰緑色の2群に類別された。両群の分生子柄は直立、先端で分枝し複 数の倒棍棒形ないし徳利形フィアライドより小型球形の単細胞分生子を連鎖状に形成する。分離菌は両群とも5~30°Cで生育し、23°Cで最も生育良好。 

④ゴデチア立枯病菌:Pythium ultimum Trow var. ultimum(鞭毛菌類)

CMA培地上で白色綿毛状、無紋様のコロニーを形成し、生育が極めて早く適温の28°Cでは28mm/日の速さで菌糸が伸び、5~33°Cで生育する。菌糸に は隔壁がなく、シャーレ低面に倒棍棒形の付着器を形成する。造卵器は側生、頂生または間生、球形、表面平滑、直径16-22(平均20.1)μm。造精器 は造卵器の直下に1個付着し、無柄または短柄の同菌糸性、卵胞子は未充満性、厚膜で直径(10-)14-19(平均16.2)μm。雌雄同株性。(測定値 は農環研、大久保博人氏による)

⑤アネモネ炭そ病菌:Colletotrichum acutatum Simmonds ex Simmonds(不完全菌類)

培地上の生育はやや緩慢で、コロニー裏面は淡橙色または灰白色。5~35°Cで生育し、生育適温は26°C付近。宿主の地際茎に形成された分生子層には、長さ 34-88μm、太さ3.5-5.5μm、褐色のやや湾曲した剛毛が見られる場合がある。分生子は無色、単細胞、紡錘形、長楕円形または円筒形で変異に富 み、大きさは8-14.4(-17)×2.4-5.6μm。PCA上の菌糸より形成された付着器は淡褐色、灰褐色ないし褐色、厚膜、倒卵形ないし楕円形、 大きさは6-11.6×5-7μm。

 

その他

  • 研究課題名:花き類の初発生菌類病の迅速診断法及び防除技術の開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(平成6~8年)
  • 発表論文等:②日植病報60:777,1994、④日植病報61:221,1995、⑤日植病報61:221,1995、日植病報62,1996(印刷中)、Proc.3rd,China-JapanIntern.Congr.Mycol.p.35,1995.