温暖地西部における水稲の「嫌気土中直播」による苗立ち
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要約
嫌気土壌中に播種した催芽種子の苗立ちは低温下で低下し、また品種間の差も大きいが、温暖地西部では6月の代掻き直後の散播により、通常品種で酸素供給剤なしでも良好な苗立ちが得られる。
- 担当:中国農業試験場・生産環境部・土壌管理研究室
- 連絡先:0849-23-4100
- 部会名:近畿中国(生産環境)、近畿中国(作物生産)、総合農業(生産環境)
- 専門:肥料
- 対象:稲類
- 分類:研究
背景・ねらい
代掻きをした水田での水稲の直播には、土壌中に播種する「潤土土中播種」と土壌表面に播く「潤土表面播種」がある。前者では種子が酸素不足に陥るのを防ぐため催芽種子を酸素供給剤カルパーで被覆しており、後者では苗立ちの不安定さと倒伏が問題となる。最近熱帯アジアで、酸素供給剤で被覆していない催芽種子の代掻き直後の土中への散播が試みられており、Anaerobicseeding(嫌気土中播種)と呼ばれている。そこでこの播種法が日本の温暖地西部でも適用できるかどうかを評価する。
成果の内容・特敬
- 6月中旬(日平均気温23°C)に、品種ヒノヒカリを用いて散播で嫌気土中播種を行ったところ、カルパーを用いた潤土土中播種より劣るが、潤土表面播種よりもよい苗立ちが得られた(図1)。倒伏は潤土表面播種で最も大きく、潤土土中播種で最も小さく、嫌気土中播種ではそれらの中間であった。嫌気土中播種と潤土土中播種とも高い籾収量が得られた。以上の結果は温暖地西部でも嫌気土中播種が可能であることを示唆している。
- 嫌気土中からの苗立ちは温度により大きな影響を受け、低温条件下で低下する(図2)。
- 苗立ち(図2)と鞘葉の出芽するスピード(図3)はインド原産の品種ASD1が最も優れている。低温下では赤米が、高温下ではカルパー被覆種子がASD1と同程度の苗立ちを示す。
成果の活用面・留意点
酸素供給剤や被覆機械の購入と被覆作業を必要とせず、生産費を大幅に節減できる可能性があるが、広域に適用するにはさらに種子勢、土壌型及び気象条件との関係を明らかにする必要がある。今後適性品種(低温・嫌気土壌耐性)が開発されれば、低温下での苗立ちも安定化でき、早期栽培にも利用できると考えられる。
具体的データ


その他
- 研究課題名: 重窒素標識法による窒素高度利用稲の栄養生理特性、暖地水稲の省農薬・良食味・持続的土壌養分管理技術の開発
- 予算区分: 次世代水稲、経常
- 研究期間: 平成7年度(平成5~9年)
- 研究担当者: 山内稔、上野秀人
- 発表論文等:
(1)Riceseedlingestablishmentasaffectedbycultivar,seedcoatingwithcalciumperoxide,sowingdepth,andwaterlevel.FieldCropsResearch41,123~134,1995.
(2)Anaerobicdirectseedingofriceinthetropics.JIRCASJournal2,65~78,1995.
(3)Developmentofanaerobicdirectseedingtechnologyofriceinthetropics,第2回アジア作物学会議、1995.
(4)水稲の嫌気土壌中への直播、日本土壌肥料学会講演要旨、1996.