シバ型草地を含む放牧地における牛糞によるシバ種子の散布

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要約

放牧強度の高い条件下のシバ型草地においては、シバ種子の生産のかなりの部分が、春期の排糞により形成された不食過繁地で行なわれる。これらのシバ種子の多くは、排糞後2カ月以降には採食されて牛糞中に移行し、放牧地内に散布され、シバ型草地の面積拡大に貢献する。

  • 担当:中国農業試験場・畜産部・草地飼料作物研究室
  • 連絡先:08548-2-0144
  • 部会名」草地・永年草地、近畿中国・畜産
  • 専門:生態
  • 対象:野草類
  • 分類:研究

背景・ねらい

国内の代表的な半自然草地であるシバ型草地は、省力的で低コストな飼料資源として、また、アメニティー空間としての価値が最近見直されてきている。シバの硬い種子は牛の腹を通ることで発芽しやすくなることから、シバ型草地の面積拡大の手段の1つとして牛糞によるシバ種子の散布を活用できる。ここでは、シバ型草地0.5haを含む野草地3.5haにおいて、黒毛和種成雌牛6頭を300CD/ha程度の放牧強度で定置放牧した場合の糞中種子によるシバの伝搬・定着の実態を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 春期の排糞によってシバ草地に形成された不食過繁地では、放牧強度の高い条件のもとでもシバの開花、結実は順調に行なわれ、6月上・中旬にはm2当たり1500粒を越える発芽可能シバ種子が存在する。これに対して、糞がなく頻繁に採食を受けた場所(採食地)の種子生産量は極めて低いレベルにとどまる。不食過繁地は、排糞後およそ2カ月(7月)以降には採食され、同時にシバの穂も採食される(図1)。
  • 放牧牛の排泄糞中に含まれるシバ種子の数は、6月下旬頃にピークに達したのち急激に減少するが、7月下旬以降は不食過繁地の採食に伴なう2回目のピークが認められる(図2)。
  • 牛糞上で発芽した草種はシバ、ヒメスイバ、シロクローバ、レッドトップ、オオチドメ、ミヤコグサ等である。シバの定着個体数は排糞した年の9月頃に最も多く、その後次第に低下するが、排糞翌年の秋までに最高実生数の20~24%が生存し、定着する(図3)。
  • 以上の結果から、放牧強度の高い場合でも不食過繁地で結実したシバ種子の糞による散布と発芽・定着が可能である(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 同一牧区に既存のシバ型草地を取り込むなどの方法により、保全的にシバ草地を造成、拡大することができる。
  • 糞上のシバ種子の発芽・定着は、その場所の土壌、植生などによって異なり、また牛糞の散布は必ずしも均一でないので、水場の位置、補助給与の場所などを工夫し、放牧牛の行動域を制御する必要がある。

具体的データ

 

図1.不食過繁地と採食地におけるシバの着穂粒数

 

図2.排泄直後の糞中に含まれるシバ種子粒数

 

図3.糞上で発芽したシバの定着数の推移

 

図4.不食過繁地からのシバの生育地拡大(強放牧条件)

 

写真.糞中種子から定着したシバ個体

その他

  • 研究課題名:シバ型草原への保全的転換技術の確立
  • 予算区分:地域営農(地域総合)
  • 研究期間:平成7年度(平成5~9年)
  • 研究担当者:高橋佳孝、齋藤誠司、萩野耕司
  • 発表論文等:高橋佳孝、齋藤誠司、大谷一郎、萩野耕司、シバ草地を含む放牧地での牛糞によるシバ種子の散布、日草誌41(別)、15-16、1995.