カラタチの光化学系1サブユニットアンチセンス組換え体の作出

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要約

光化学系1のPsaDとPsaEサブユニットをコードしているpsaDpsaEのcDNAを、CaMV 35Sプロモータに対して逆方向に挿入した組換えバイナリベクタを作製し、アグロバクテリウムを介した形質転換法によりカラタチに導入し、目的遺伝子が導入された形質転換体を複数得た。

  • 担当:四国農試・作物開発部・果樹栽培研究室
  • 連絡先:0877-62-0800
  • 部会名:生物工学・果樹
  • 専門:生理
  • 対象:果樹類
  • 分類:研究

背景・ねらい

光合成で利用されるエネルギーは葉緑体において光エネルギーから変換され生じるが、この過程には多数のタンパクや色素成分が関与している。そのなかで光化 学系1と呼ばれる成分に含まれるタンパクサブユニットのうち、PsaDとPsaEと呼ばれる2つのタンパクサブユニットは、電子伝達成分は持たないものの 光エネルギー変換過程に間接的な影響を及ぼし、光合成の効率を左右することが微生物を使った研究で示されている。しかし高等植物での役割については未解明 であり、光合成能力の改善の可能性を探るためにも詳細な解析が求められている。そこで、これらサブユニットの細胞内での合成量をアンチセンス法で抑制した 組換えカラタチを作製し、目的遺伝子が導入された組換え体を選抜してこれらサブユニットの光エネルギー変換系における役割の解明を目指す。

成果の内容・特徴

  • カラタチ由来の psaDapsaDb cDNAと、両者を縦列に接続したもの、およびpsaE cDNAを、バイナリベクタであるpBE2113-GUS中のGUS遺伝子とCaMV 35Sプロモータに対して反対方向となるように置換した4種のアンチセンス組換えベクタを作製した(図1)。これらを、アグロバクテリウムを介してカラタチに導入し、カナマイシン(200μg/mL)抵抗性で選抜した。
  • カナマイシンに抵抗性の再分化個体をPCRでスクリーニングし、それぞれから目的遺伝子が導入されたと思われる組換え体を複数得ることが出来た(表1)。 形質転換の効率はおよそ1割であった。得られた組換え体は順次カラタチに接ぎ木し、増殖をはかった。
  • 得られた組換え体は、野生型(非形質転換体)とは低照度下では外観上特に異なる点は認められず、MS培地中での生育もおおむね良好であるが、一部に光合成特性の異なるものが認められた。

成果の活用面・留意点

果樹類の中でも短期間で容易に組換え体を得ることのできるカラタチを用いることで、果樹光合成研究に遺伝子組換え技術を導入することの有効性が示された。また、本課題は光合成の光エネルギ-変換機構の解明に貢献する。

具体的データ

図1.カラタチアンチセンスベクタマップ

表1.カラタチ形質転換体スクリーニング結果

その他

  • 研究課題名:光エネルギー変換にともなう電子伝達系の効率を制御する因子の機能解析
  • 予算区分:総合研究(バイテク植物育種)
  • 研究期間:平成9年度(平成6年~8年延9年)
  • 研究担当者:清水徳朗
  • 発表論文等:清水徳朗、徳富(宮尾)光恵、山本直樹、大橋祐子、小林省蔵(1998)日本植物生理学会 平成9年度年会(北海道)