ゲノムスキャニング法を用いたウンシュウミカン変異遺伝子の単離法
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
本法はウンシュウミカンの枝変りや珠心胚実生由来の系統を対象として、ゲノムスキャニング法による解析で系統間で変異が認められる遺伝子を単離して構造を解析するための手法であり、栽培上有用な形質と遺伝子の関連の解析に広く活用することが出来る。
- 担当:四国農業試験場・作物開発部・果樹栽培研究室,育種工学研究室
- 連絡先:0877-62-0800
- 部会名:生物工学・果樹
- 専門:生物工学
- 対象:果樹類
- 分類:研究
背景・ねらい
カンキツ栽培技術の高度化を目指す上で、果実の熟期や糖度、果形や収量などの重要な形質がどのような生理機構で構成されているかをあきらかにすることは大変重要である。しかしウンシュウミカンにおいては、樹体が大きいことや圃場試験主体であるため結果が変動すること、また遺伝学的手法が適用できないことなどが栽培生理研究の大きな障害となっている。一方、今日栽培されているウンシュウミカンには、1本の原木から繁殖していく過程で枝変りや珠心胚実生として偶然発見された系統が多い。これらの系統は原系統の体細胞が突然変異して発生したと見られ、系統間で変化した形質に関連した極少数の遺伝子だけが変異したと考えられる。
四国農業試験場では昨年度、DNAの二次元電気泳動を利用したゲノムスキャニング法である restriction landmark genomic scanning(RLCS)法により、ウンシュウミカンの系統間で変異した遺伝子構造の検出が可能であることを示した。そこで今回、変異の認められた遺伝子を効率よく単離し、その構造を決定するための手法を開発することで、カンキツ栽培生理研究に資することを目的とした。
成果の内容・特徴
- 目的とするDNA断片の両端に存在する特異的な構造に注目し、化学合成した短鎖DNAをその構造を利用し
て結合させ、その後結合させたDNAを標的とした
PCR法により目的DNAを増幅した。本手法により、混在する夾雑DNAを増幅することなく目的のDNA断片のみを効
率よく単離することが可能である。
- 適用例として、代表的なウンシュウミカン系統である「宮川早生」と、その枝変り系統の「宮本早生」
において、「宮川早生」では見出されるが「宮本早生」では見出されない遺伝子座に対応するスポット(
図1
)からDNA断片をクローニングした。このDNA断片をプローブとするサザンハイブリダイゼーションの結果、両
系統間のパターンに違いが認められた(
図2
)。複数の個体で同一の結果が得られたことや、分子サイズ、構造などから、目的の変異遺伝子が得られたと
判断された。本手法は体細胞の突然変異に由来する系統の変異遺伝子の迅速な単離法として有効である。
成果の活用面・留意点
本手法により、在来のウンシュウミカンの原系統と変異系統間で変異の認められる遺伝子を効率よく単離して
、その性質を詳しく解析することが可能となる。また、同様の変異を示す他の作物についても、その変異遺伝
子を解析するための手法として容易に応用することができる。
具体的データ


その他
- 研究課題名:カンキツの枝変りと遺伝子の変異に関する研究
- 予算区分:科振調(重点基礎)
- 研究期間:平成10年度
- 研究担当者:清水徳朗、河瀬真琴、富岡啓介
- 発表論文等:
・’Restriction landmark genomic scanning(RLGS) method for genetic analysis in crop plants’、第18回国際遺伝学会、北京市(中国)、1998年8月
・「RLGS法によるウンシュウミカンの有用遺伝子の解析」四国農試ニュース、No.77、1998年8月
・「ウンシュウミカン系統ORLGS解析とスポットクローニング」平成10年日本分子生物学会、p.263、横浜
、1998年12月
・「ゲノムスキャン法によるウンシュウミカンの遺伝子変異の解析」平成11年度園芸学会春季大会、つく
ば、1999年4月(発表予定)