シバ優占放牧草地における不食パッチによる種多様性の維持

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要約

シバ優占の放牧地では、採食地の中に家畜が採食しない草丈の高い場所(不食パッチ)が生じ、秋期に開花する高茎草本の多くはこの中で生存可能となる。種多様性の高い植物群落に導くためには、草地内に不食パッチが出現するような放牧密度で管理するとよい。

  • 担当:中国農業試験場・畜産部・草地飼料作物研究室
  • 連絡先:08548-2-0144
  • 部会名:畜産
  • 専門:生態
  • 対象:野草類
  • 分類:研究

背景・ねらい

シバ型草地での放牧は、在来草種を利用した省力的な放牧形態として、また自然環境の保全等に配慮した放 牧形態として、近年再評価されている。しかし、集 約的な放牧利用は、時として群落の種多様性の低下を招き、自然保護の観点から問題を生じることが少なくな い。そこで、放牧草地に特徴的な植生構造と種組成 の関係に注目し、より種多様性の高いシバ型草地を目標とする管理形態を検討した。

成果の内容・特徴

  • 毎年1回冬期に刈払いを行ない、黒毛和種成雌牛を約1頭/haの密度で連続放牧しているシバ型の野草地 では、6月頃に草丈の低い採食地の中に草丈 30cm以上の場所(不食パッチ)が点々と形成される。パッチの成因は、有刺植物や糞およびそれらの周囲を牛 が採食しないためである。8月にはパッチの面 積が全体のおよそ20%を占め、その後は秋期までパッチの位置および面積はほとんど変化しない。
  • 丈の高いパッチの中には、丈の低い採食場所には出現しない高茎草本が生育しており、草地全体の種 多様性を高めている。秋期の1m2当たり平均出現種数は、採食地で12.4種(最小7、最大22種)、不食パッチ で18.1種(最小11、最大24種)である。
  • 秋咲きの草本の多くは、不食パッチで密度が高く、開花・結実も順調に行なわれる。調査対象種のうち、センブリ一種のみはパッチに分布せず、草丈の低い場所(採食地)にのみ分布してい た。
  • 採食地で種組成が単純化しやすいシバ型放牧地において、種多様性を向上させるためには、不食パッ チの存在が不可欠であり、種多様性の高い植物群落を目標とすれば、草地内に不食パッチが残るように、放牧 密度を高めすぎないことが必要である。

成果の活用面・留意点

  • 多種類の在来植物が生活史を完結する条件を整備し、多様性の高い放牧地を造成・維持する上での基礎的 知見として活用できる。
  • 不食地の刈払いを行なう際には、草本植物の開花・結実時期を避けるか、全面刈りをせずに部分的に 不食地を残す等の配慮を必要とする。

その他

  • 研究課題名 : 草原性植物の生態保全と畜産的土地利用との関連解析
  • 予算区分 : 経常
  • 研究期間 : 平成10年度(平成8~11年)
  • 担当:研究担当者 : 内藤和明・高橋佳孝・周 進・佐藤節郎・井出保行・齋藤誠司
  • 発表論文等 : 放牧地におけるパッチ構造と群落の多様性維持、第46回日本生態学会大会講演要旨集、253 、1999.