中国中山間地域の肉用牛繁殖・稲作複合営農における里地放牧導入の経営的効果

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要約

肉用牛繁殖・稲作複合営農の多い中国中山間地域において、里地放牧の導入は、夏季の農作業時間を40~73%も削減でき労働軽減に大きく貢献し、複合営農の1日当たり労働報酬額を高め、子牛価格低下に対する肉用牛飼養の持続性に寄与する。

  • 担当:中国農業試験場・総合研究部・総合研究第2チーム
  • 連絡先: 08548-2-014
  • 部会名:営農・畜産
  • 専門:経営
  • 対象:家畜類
  • 分類:指導

背景・ねらい

和子牛価格の低迷下、肉用牛経営の担い手の多くが高齢者であり、耕作放棄地等の遊休農地が広がる中国中山間地域では、耕作放棄地等を含む里地への放牧による肉用牛経営の省力化と労働生産性の改善が期待されている。そこで、肉用牛繁殖・稲作複合営農における農作業日誌をもとに、放牧導入による労働時間や経費及び労働生産性等の変化を、周年舎飼時と比較し定量的に把握し、放牧の経営的効果を具体的に明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 事例経営は経営主(58歳、兼業)とその妻の労働により稲作46aと繁殖和牛4頭を飼養する。平成10年から放牧を開始し現在、約100a(調査期間の放牧利用面積は66a)の里地(内牧草採草兼用地16a、他は野草植生)に3月下旬から11月上旬まで、天候等により放牧時間を制限しながら、分娩前後約2ヶ月間を除きすべての繁殖牛の放牧を行う。
  • 放牧導入により、年間の給餌・掃除及び敷料調達の労働時間は約26%、野草等の粗飼料調達に関わる労働時間は約45%、家畜飼養と稲作を併せた総農作業時間は約22%減少した(表1)。とくに、労働強度の高い農作業の多い4~9月の1日当たり労働時間が40~73%に著しく軽減したことは注目される(図1)。
  • 肉用牛飼養に要する労働を除く経営費は、繁殖牛の濃厚飼料費、削蹄費、疾病減少による診療衛生費、及び草刈り作業の減少による燃料費や替歯代が1頭当たり約19千円節約された。一方、電気牧柵等の資材費や疾病予防の衛生費が新たに生じ、両者を相殺した費用の減額は、1頭当たり約12千円である(表2)。
  • 肉用牛繁殖・稲作複合営農の1日当たり労働報酬額は、周年舎飼時は子牛価格が36万円を下回ると水稲単作経営よりも低くなるが、放牧を導入した場合は子牛価格が29万円まで低下しても水稲単作経営を上回る労働報酬が得られると試算され、放牧導入は価格低下に対する肉用牛部門の持続性を強める(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 耕作放棄地等を含む里地を対象に稲作肉用牛複合経営が放牧を行う際の参考となる。
  • 放牧地面積1ha当たり570日・頭の密度の放牧を行った放牧初年目の実績である。また、事例の放牧地は元々畑地であり排水改善が不要であったこと、牧柵を竹材等の自給資材を活用するなど経費を低く抑えていることに留意する必要がある。

具体的データ

表1.肉用牛飼養と稲作に関わる労働時間と放牧導入による変化の実例

 

図1.放牧導入による農作業時間の月別変化

 

表2.肉用牛飼養に要する経費と放牧導入による変化の実例

 

図2.子牛販売価格の変化と労働報酬の変化

その他

  • 研究課題名:遊休農林地活用型肉用牛生産技術の経営的評価と定着方策の解明
  • 予算区分:地域総合研究
  • 研究期間:平成11年度(平成10~14年)
  • 研究担当者:千田雅之、小山信明、谷本保幸
  • 発表論文等:里地放牧による和牛稲作複合経営の再編,中山間地域での国土資源の畜産利用による保全・開発技術に関する国際ワークショップ、73~82、1999.