鉄毒性による湛水直播水稲の苗立ち阻害
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要約
湛水土壌中における2価鉄濃度の上昇は、直播されたイネ体内の鉄濃度を上げて生育を抑制し、苗立ち率を低下させる。播種深度を浅くすることや落水により鉄毒性を軽減できる。
- 担当:中国農業試験場・地域基盤研究部・土壌管理研究室
- 連絡先:0849-23-4100
- 部会名:生産環境(土壌・気象)
- 専門:肥料
- 対象:稲類
- 分類:指導
背景・ねらい
湛水直播における苗立ちの不安定化要因として、従来から土壌還元に伴って生成する物質の存在が推察されてきた。しかし、それらの土壌中における濃度と苗立ちの関係は不明である。最近、2価鉄Fe++ が鞘葉の伸長に大きく影響する現象が見出されたので、ポット試験により土壌中のFe++ 濃度と苗立ちの関係について解明する。
成果の内容・特徴
- 様々な土壌を湛水し催芽種子を15mmの深さに播種したとき、土壌溶液中のFe++ 濃度の増加に伴いイネ地上部体内Fe濃度が増加し、地上部乾物重と第1葉の出現(苗立ち)率が低下する(図1)。体内Fe濃度は乾物重および苗立ち率と有意な相関関係を持つ。
- 苗立ちは土壌の酸化還元電位Ehが低いとき不安定になるが、両者間に相関関係はない(図1)。他の体内無機成分(Al、Ca、Cu、K、Mg、Mn、Na、P、Zn)濃度と苗立ち率との相関関係はFeに比べて低い。
- 苗立ちは0~100μg/g Fe++ で60%以上、100~200μg/gで大きく変動し、200μg/g以上で皆無という傾向であった(図1)。
- 湛水土壌における播種深度の増加は苗立ち率の低下と体内Fe濃度の上昇をもたらすが非湛水土壌では苗立ち率は高く、体内Fe濃度は低い(図2)。
- 地表水中のFe++ 濃度は土壌中のFe++ 濃度が高いとき、鉄の皮膜が水面に発生しているとき、また藻が発生しているときに高くなり、また水位によっても変動する。地表水中のFe++ 濃度が高いとき苗立ち率は低下する(図3)。完全落水は土壌中のFe++ 濃度を低下させる。
成果の活用面・留意点
- 湛水直播栽培における土壌管理技術開発のための指針とする。
- 鉄毒性の発現機構は生理生態学的に未解明である。加えて、鞘葉の伸長はFe++ によって促進される傾向もあり、発生生理学的解析も必要である。
- Fe++ 濃度が低いにもかかわらず苗立ちが低下するときは、土壌の病原性を調査する。また土壌中の有機酸濃度と苗立ちの関係は不明である。
具体的データ


その他
- 研究課題名:種子環境の解析に基づいた苗立ちの安定化機構の解明
- 予算区分 :次世代稲作
- 研究担当者:山内 稔
- 研究期間 :平成12年度(平成10~12年)
- 発表論文等:イネの湛水直播における鉄毒性の発生と落水による軽減、日作紀、69(別号1)、110-111、2000.
鉄毒性による湛水直播水稲の苗立ちの阻害、土肥講要、第46集、p.106、2000.
湛水直播水稲における鉄過剰と土壌条件、土肥講要、第47集、p.115、2001.