湛水直播水稲における種子の鉄コーティングによる浮き苗回避
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要約
水稲種子は鉄粉の湿粉衣により容易に加重され、その比重は2~3まで高まる。鉄コーティングは種子の生育を阻害せず、湛水散播において浮き苗の発生を抑制する。
- キーワード:直播、水稲、種子、苗立ち、鉄、比重
- 担当:近中四農研・地域基盤研究部・土壌水質研究室
- 連絡先:084-923-4100
- 区分:近畿中国四国農業・生産環境 (土壌・土木・気象)、共通基盤・土壌肥料
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
水稲の湛水散播においては種子が軽いため土中播種が難しい場合が多く、浮き苗が発生しやすい。酸素供給剤による種子のコーティングは酸素を供給する本来の目的に加えて、種子を加重し落水すれば土中に播種できることから、苗が浮くのを抑えるともいわれている。そこで、土壌に投入される資材のうち比重の大きい鉄で種子をコーティングし、浮き苗の発生を抑制する技術を開発する。
成果の内容・特徴
- 鉄粉 (市販品、粒径150μm以下) は湿った水稲の種子に付着しやすい。プラスチック容器を使って手作業で、また回転式粉衣機を使用して種子をコーティングできる。鉄粉や酸素供給剤を乾燥種子の4倍重まで使用して種子をコーティングしたとき、鉄コーティング種子の比重は酸素供給剤コーティング種子に比べて大きい (図1)。
- 鉄コーティングは苗立ちを阻害しない。鉄コーティング種子を湛水土中15mmの深さに播種したとき、苗立ちと体内鉄濃度は無処理種子と同等である (表1)。
- 湛水状態で鉄コーティング種子を散播すると、代かき直後ではコーティング比(鉄粉/乾燥種子重比)の増加に伴い種子が深くなりすぎて苗立ち率 (播種後2週間において第1葉を展開した個体の割合、半浮き苗状態の個体を含む) は低下するが、3時間後以降では深くならず低下しない。コーティング比の目安は代かき後3時間以上たっておれば1以下、1日後では1、2日後では1以上である (図2)。田面が固まってくる4日後ではコーティング比4で種子の1/3が土中に埋没する程度であるが、浮き苗は発生しない。
- 代かき後落水して散播するとき、コーティング比の増加に伴い播種深度は増加し、入水後の浮き苗発生を抑制する(図3)。コーティング比2までは苗立ち率を低下させないが、4では深播きのため低下する傾向がある。
成果の活用面・留意点
- 鉄コーティングにより浮き苗回避のための落水は不要となり、環境にやさしい節水栽培が可能になる。また、代かき後何時でも播種できる。
- 本成果は細粒灰色低地土での比較的高温時での試験結果に基づいている。土壌型や管理の異なる水田ではコーティング比や播種のタイミングを調節する必要がある。
- ここで用いる資材は金属鉄であり、鉄毒性の発現に関わる鉄イオンではない。連続使用によって土壌特性は改良されると想定できる。鉄粉は水とCa++やNa+の存在下で酸化し発熱するので、酸素供給剤と併用しない。
具体的データ



その他
- 研究課題名:土壌管理の改善に基づいた湛水直播における苗立ち安定化技術の確立
- 予算区分:21世紀プロ5系
- 研究期間:2001~2004年
- 研究担当者:山内稔
- 発表論文等:山内 (2002) 日作紀 71 (別1号):150-151