麺用小麦育種における製粉性向上のための硬質性ピュロインドリン遺伝子の利用法

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要約

小麦粉粒度を大きくし製粉性向上に有用な硬質性ピュロインドリン遺伝子Pinb-D1bは、粘弾性を低下させ、粉色の明度は向上させるが赤みを増す。この遺伝子を利用した麺用硬質小麦の育種にあたっては、ワキシー遺伝子の併用による粘弾性の改善と、粉色の赤みが低い系統の選抜が必要である。

  • キーワード:小麦粉粒度、製粉性、硬質、ピュロインドリン、麺用、小麦、育種
  • 担当:近中四農研・作物開発部・小麦育種研究室
  • 連絡先:0849-23-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・作物生産
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

国産麺用小麦は、硬質小麦がブレンドされているASWに比べて製粉性が劣る。特に東海以西に多く見られる低タンパク質小麦は小麦粉が過度に細かく、粉の凝集性が強いため篩抜けが悪い。製粉性の改良のためには硬質性の導入が有効であると考えられているが、その他の品質項目に対する影響が評価されておらず、麺用硬質品種の育種は積極的にはなされていない。そこで半数体倍加系統群(中国140号×チクゴイズミ)を用いて、「中国140号」が有する硬質性遺伝子の効果を解析し、育種利用上の有用性と留意点を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「中国140号」の硬質性遺伝子はPCR分析の結果、Pinb-D1bである。
  • 硬質遺伝子Pinb-D1bは軟質性遺伝子Pinb-D1aと比較して、粉の粒度を大きくし、製粉歩留を向上させる(図1).
  • 硬質遺伝子Pinb-D1bは原粒の千粒重、タンパク質含有率、灰分含有率には影響を及ぼさないが、小麦粉のタンパク質含有率、灰分含有率は高くする(表1)。
  • 硬質遺伝子Pinb-D1bは、小麦粉の糊化特性の一つであるブレークダウン値をやや小さくし粘弾性に悪影響を与えるが、「チクゴイズミ」等が持つワキシー遺伝子により低アミロース化することによって、改善が可能である(図2)
  • 硬質遺伝子Pinb-D1bは小麦粉色相のL*(明度)を向上させるが、a*(赤み)も高くするので(表1、図3)、硬質系統の選抜にあたっては a*の低い系統の選抜が重要である。

成果の活用面・留意点

  • 製粉性の優れる麺用硬質小麦品種の育成に活用できる。
  • Pinb-D1b以外の硬質遺伝子を持つ品種も存在し、硬質遺伝子の種類によって品質に対する作用の程度が異なる可能性があるので、Pinb-D1b以外の硬質遺伝子を利用する際には注意が必要である。

具体的データ

表1.硬質系統と軟質系統の品質の差 図1.硬質(×)及び軟質(○)系統の小麦粉粒度と製粉歩留の関係

 

図2.硬質(×)及び軟質(○)系統のアミロース含有率と糊化特性ブレークダウン(粘弾性)の関係 図3.硬質(×)及び軟質(○)系統の小麦粉の色相

 

その他

  • 研究課題名:小麦の高品質・早生・多収品種の育成
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:1997~2000年度
  • 研究担当者:長嶺敬、池田達哉、柳沢貴司(作物研究所)、石川直幸
  • 発表論文等:長嶺ら(2001)育種学研究 3(別1):142.