トマト台木品種の青枯病抵抗性機構

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要約

青枯病菌はトマト木部組織の壁孔膜が崩壊した壁孔を通じて導管から導管、柔細胞へと移行する。抵抗性台木品種では壁孔膜の高電子密度化・肥厚、導管内での高電子密度物質の集積や柔細胞でのapposition layerの形成等により青枯病菌の移行を抑制している。

  • キーワード:トマト、台木、青枯病、抵抗性、組織病理学
  • 担当:近中四農研・地域基盤研究部・病害研究室
  • 連絡先:084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(病害虫)、共通基盤・病害虫
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

トマト青枯病防除対策のための抵抗性台木品種の利用は、最も安定した技術として定着している。しかし、近年、接ぎ木トマトにおける青枯病の発生が各地で問題となっており、台木品種の青枯病抵抗性機構に基づいた防除法の確立が望まれている。これまでに、1)接ぎ木トマトは、台木の無病徴感染により青枯病菌が穂木に移行し発病すること、2)台木の抵抗性は植物体内での青枯病菌の移行・増殖の抑制によることを示した。そこで、この青枯病菌の移行・増殖抑制に係わる機構を感受性品種ポンデローザと台木品種LS-89の青枯病菌感染木部組織を電子顕微鏡を用いて組織病理学的に解析する。

成果の内容・特徴

  • 感受性品種ポンデローザ:青枯病菌が存在する導管周辺の柔細胞が壊死を起こし,壁孔膜の崩壊消失する(図1A、B)。青枯病菌は,崩壊した壁孔を通じて木部組織全体に広がる(図1B)。
  • 抵抗性台木品種LS-89:青枯病菌が分布する導管周辺の柔細胞の壊死は少ない(図2A)。青枯病菌が存在する導管に接する柔細胞の壁孔膜とその周囲の細胞壁の電子密度が高めで肥厚する。また、壁孔膜近傍の菌体が一部変性している。病原細菌が存在する導管の壁孔膜およびその周辺の細胞壁に沿って高電子密度の物質の集積が認められる(図2B)。柔細胞では壁孔膜に沿ってapposition layerが形成される。
  • 上のような導管および柔細胞の壁孔周辺での組織病理学的な知見から,青枯病菌は壁孔を通じて導管から他の導管または柔細胞へと移行する。抵抗性台木品種の木部組織では,上記の反応により、壁孔を通じた青枯病菌の移行が抑制されている。

成果の活用面・留意点

  • 都道府県の研究員や普及員による接ぎ木栽培の農家への導入・指導時における基礎的な情報として活用できる。
  • LS-89を用いた青枯病抵抗性に係わる量的形質遺伝子座(QTL)解析やカルシウム処理による抵抗性の増強等の研究成果の現象面からの基礎資料となる。

具体的データ

図1.ポンデローザの青枯病菌感染木部組織の電顕写真

 

図2.LS-89の青枯病菌感染木部組織の電顕写真

その他

  • 研究課題名:トマトの青枯病抵抗性機構の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:1996~2000年度
  • 研究担当者:中保一浩、宮川久義
  • 発表論文等:1)Nakaho et al. (2000) J. Phytopathol. 148:181-190.