小麦の硬質性に関わるピュロインドリン遺伝子型の分類
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要約
硬質小麦の品質に影響するピュロインドリン (Pina, Pinb) 遺伝子型には国内外の硬質品種において多様な変異が存在する。また新規ピュロインドリン遺伝子を中国品種に見いだした。
- キーワード:小麦、硬質性、ピュロインドリン、PCR法
- 担当:近中四農研・作物開発部・育種工学研究室
- 連絡先:084-923-4100、tmikeda@affrc.go.jp
- 区分:作物・冬作物、近中四・生物工学
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
小麦種子の硬軟質性は、小麦の製粉性や加工適性に強く影響を与える重要な形質である。硬軟質性には2種のデンプン粒表層タンパク質ピュロインドリン(PIN-aとPIN-b)が関与し、PIN-aをコードするPina-D1a遺伝子の欠失、PIN-bをコードするPinb-D1a遺伝子の点突然変異などによって種子が硬質になり、これらの遺伝子型変異は小麦粉粒度、損傷デンプン量などの品質形質に影響を与えることが知られている。現在、国産麺用品種の製粉性の改良のために、オーストラリア品種のような硬質品種の育成が試みられており、またパン用硬質品種の育成は今後の重点育種課題となっている。このような状況下、国内外の主要品種系統のピュロインドリン遺伝子型の変異解析が品質育種をすすめるための基礎的情報として求められている。
成果の内容・特徴
- 遺伝子型特異的なPCR分析及び塩基配列解析によって、国内外の硬質小麦102品種系統は4種類のPin遺伝子型変異に分類できる(表1)。
- 国産の麺用として用いられている硬質品種系統のほとんどはPinb-D1bである。国産パン用品種系統にはPina-D1b Pinb-D1b、Pinb-D1c の3遺伝子型が存在する。オーストラリア品種では24品種中、麺用品種であるCadoux, Eradu, Gamenyaを含む6品種が軟質の遺伝子型であるが、18品種が硬質であり、そのうち5品種がPina-D1b、13品種がPinb-D1bの硬質品種である(表1)。
- 中国の硬質4品種のPinb遺伝子には、既知のPinb遺伝子の点突然変異遺伝子 (Pinb-D1b~g) と異なり、PIN-bのデンプン結合能に関与するトリプトファンリッチ領域をコードする領域の1塩基の欠失によるフレームシフト変異{Pinb-D1h(t)}が生じている(図1)。
成果の活用面・留意点
- 主要な硬質性3遺伝子型の穀粒硬度と小麦粉粒度はPina-D1b>Pinb-D1c>Pinb-D1bである(Lillemo and Morris 2000; 中道ら 2002)。この違いは損傷デンプン量や色相などの品質関連形質に影響する。麺用には、穀粒が比較的軟らかいために損傷デンプンが少なく、またふすまの混入が少なくて比較的色相の優れるPinb-D1bが適しており、製パンの発酵改善には、穀粒が硬くて製粉時に損傷デンプンの多くなるPina-D1bの利用が考えられる。硬質品種の育成にあたっては用途・栽培条件に応じた遺伝子型を選択する必要がある。
- 中国品種に見いだしたフレームシフト変異遺伝子型{Pinb-D1h(t)}の品質多面効果については未知である。
具体的データ


その他
- 研究課題名:小麦のアミロプラスト膜構成脂質及びピュロインドリン遺伝子型変異の解析
- 予算区分:21世紀1系
- 研究期間:2002-2005年度
- 研究担当者:池田達哉、長嶺敬、矢野博