イネ苗立枯細菌病菌を保菌する畦畔雑草から水稲種子への感染経路

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

イネ苗立枯細菌病菌(Burkholderia plantarii)は畦畔の保菌雑草が雨または田面水に浸かることで浮遊し、それが風雨によって飛散し、開花期のイネの穂に感染することで種子伝染する。

  • キーワード:イネ苗立枯細菌病菌、Burkholderia plantarii、畦畔雑草、種子伝染
  • 担当:近中四農研・地域基盤研究部・病害研究室
  • 連絡先:電話084-923-4100、電子メールmiyagw@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(病害虫)、共通基盤・病害虫
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

イネ苗立枯細菌病は種子伝染するが、その具体的伝染経路については不明の点が多かった。今までにため池水、田面水中に苗立枯細菌病菌が浮遊していることを報告した(平成10年度近畿中国農業研究成果情報p.117、平成12年度 同p.95)。そこで、浮遊した苗立枯細菌病菌の寿命、風雨による飛散、穂への感染等について検討し、伝染経路を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 保菌雑草(ヌマガヤ)から30℃の水中に浮遊したイネ苗立枯細菌病菌は、一旦増殖することもあるが、概ね4~5日で死滅する。
  • 水田畦畔の主要イネ科雑草であるチガヤを鉢植えにしてイネ苗立枯細菌病菌を浸漬接種すると、1ヶ月後でも根圏で本細菌が生存している(表1)。
  • 自然降雨下では、イネ苗立枯細菌病は水面から30cmの高さまで飛散が確認された。また、農家水田畦畔においても、30cmの高さまで飛散が確認される。
  • 簡易風洞と人工降雨装置を用いて保菌雑草からの苗立枯細菌病菌の飛散を調査した試験では、風速3~5mの条件下では雨で浮遊したイネ苗立枯細菌病菌が保菌雑草の風下の60cmの高さまで飛散することが確認される。
  • 保菌雑草および畦畔雑草から浮遊したイネ苗立枯細菌病菌を含む水を開花期のイネの穂に噴霧すると、その収穫籾では保菌が確認され、これを播種すると本病が発生する(表2)。
    以上のことから、風雨で地際部が洗われたり、田面水に浸かることで畦畔雑草からイネ苗立枯細菌病菌が浮遊し、それらが風雨により飛散して、開花期の穂に感染することで本細菌が種子伝染するものと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • イネ苗立枯細菌病菌の保菌籾と非保菌籾は外見からは区別がつかないので、畦畔雑草が繁茂している水田では、畦畔沿いのイネ株からの採種を行わない。
  • 東北地方では畦畔雑草のコウヤワラビ経由の伝染経路も報告されているので、それらにも留意する。

具体的データ

表1.チガヤ根圏に接種された苗立枯細菌病菌の1ヶ月後の生存

 

表2. 保菌雑草から浮遊した苗立枯細菌病菌の種子伝染

その他

  • 研究課題名:イネ苗立枯細菌病の発生生態の解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:宮川久義、井上博喜
  • 発表論文等:Miyagawa, H. and Inoue, H. (2002).Alternative route of infection for bacterial seedling blight of
                      rice caused by Burkholderia plantarii. J. Gen. Plant Pathol. 68(4):356-362.